「ふるさと納税」法改正でも止まらない税金流出 独自試算!実質住民税「流出額」ランキング

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56億円――。2年連続で流出額がワーストとなった川崎市では2019年、市の予算の1%弱が失われた。財政局財政部資金課の神山武久課長は「当初の見通しよりもさらに流出額が膨らんだ。当然、市政にとって打撃だ」と打ち明ける。

財源が流出した分は、市債の返済に充てるための積立金である減債基金を取り崩し、穴埋めしている状況だ。「今すぐに何か住民サービスを止めるというわけではないが、返済のタイミングが来たときに、住民サービスが低下することになる」(神山課長)。

川崎市では子育てをしながら東京に通勤する世代が多いことから、駅前など便利な立地への認可外の保育園開設のニーズも大きい。認可外の保育園を開設するには、川崎市独自の財源で支出する必要があるが、住民税の流出が拡大する一方の現状では、こうした政策運営も難しい。

市税流出の実態を訴える川崎市のポスター(記者撮影)

財源の流出が無視できないレベルに膨張したことを踏まえ、川崎市も対策に乗り出した。2019年11月から「ふるさと納税によって流出している市税は、本来は、私たち川崎市民のために使われる貴重な財源です。」と書かれたポスターを、市役所内や市内を走るJR南武線、鶴見線に貼り出した。

市税の減収を知らない市民たち

ふるさと納税は、寄付先の自治体に寄付金が入り、寄付した人は返礼品がもらえ、返礼品を生産する事業者の収入にもなることから、「みんな幸せになる」と紹介されることが多い。しかし、実際には、寄付者が居住する自治体の住民税が減っている。

川崎市が市民に対して行ったアンケートでは、「ふるさと納税により、市税が減収していることを知っているか」との問いに、63.8%が「知らなかった」と回答している。要はポスターを掲出することで、市が負担している一面を市民に周知する狙いがあった。

実際にポスターに対する市民の反響は大きかった。「(ふるさと納税を)控えようと思う」「私がふるさと納税をしない理由はこれです」といった好意的な意見に加え、「税金の無駄遣いをするな」「魅力的な市政をしろ」などの反発も多く寄せられ、賛否両論を呼んだ。

こうした流出対策に加えて、川崎市は自らへのふるさと納税を集めようともしている。2019年10月から、市に本拠地を置くサッカー・J1の「川崎フロンターレ」のサイン入りユニフォームや、プロバスケットボールクラブの「川崎ブレイブサンダース」の観戦チケットなどを返礼品に出し、寄付を募っている。初年度の2019年度は1億円弱が集まる見通しだ。

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