障害のある弟と28歳の姉の「大変じゃない」生活 先生の「助けてあげましょう」に泣いた理由

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まずは相手が話したいかどうかを尊重し、そのうえで耳を傾けること。「相手が望むことをする」という発想が、その先生にも私にも欠けていたのでしょう。今後、肝に銘じます。

「そういう人もいるんだね」で終わるくらいが1番いい

弟の良太さんは幸い、保育園や学校でいやな思いをすることは少なかったようです。保育園のときは、同じ組の子どもたちが「きっしー(良太さんのあだ名)にも運動会のリレーに出てもらおう!」と言い出し、みんなでバトンパスの練習をして、見事1位になったこともあったそう。

岸田奈美さん(撮影:谷川真紀子)

小学校でもみんなに仲良くしてもらい、慕われる存在でした。卒業式のとき奈美さんの母親は、ほかの子のお母さんから「この子、良太くんと一緒のクラスになってから、弟の面倒もみるようになったんです」と、お礼を言われたこともあったといいます。

「弟の人間性も大きかったんですけれど、母もすごく頑張ったんです。良太が小学校に入るときは孤立しないように、『ありがとう』と『ごめんなさい』と、『おはよう、こんにちは』の挨拶をしっかり言えるように、すごく練習したんですね。

それから母は、子どもたちの登校班にも勝手に付いていってました。そうすると、子どもたちがみんな寄ってきて、『聞いて、きっしーのお母さん聞いて!』ってなるから、母を介して、良太とも話をするようになる。そういう空気をつくっていったのも、よかったことだろうなと思います」

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親の状況によっては、奈美さんのお母さんのように登校班まで付いていってあげることまでは難しいでしょう。でも、良太さんがそんなふうにして周囲となじみやすくなったことは、何よりでした。

「違う考えを『認める』ってよく言いますけれど、それは無理だと思うんですよ」

奈美さんから出た思わぬ言葉に、つい顔をあげました。私はまさに「違いを認める話」だと思って奈美さんの話を聞いていたのですが、違うのでしょうか。

「『認める』というと、『正しいこと』と認識しないといけないけれど、『正しい』と思えないことだって絶対ある。だったら『多様性があるということを認識する』、というくらいでいいんじゃないかなって。『あ、そういう人もいるんだね』で終わるっていうのが、1番いいと思うんです。

私のエッセイにいただくのは9割9部が応援コメントなんですけれど、やっぱり中には、私の考えを変えようとして、いろいろ言ってくる人もいます。でも本当は、『あなたはそうしたんだね、私にはわからないけど』で、いいんですよね」

多様性の受け入れとは「自分の考えを変える」ことではなく、「自分と違う考えや状況の人もいるのを認識する」こと。そんなふうに言われれば、腑に落ちる人もいるかもしれません。

始まったばかりの2020年。今年はもっと、自分と異なる考えや人の存在をナチュラルに受け止める世の中になるといいな、と思います。

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