2020年の米中貿易交渉が楽観視できない理由 「第1弾の合意成立」に安心してはいけない
その合意可能な部分だけをまとめるはずだった第1段階の交渉でも、ここまで難航したのである。今後はいったん棚上げせざるをえなかった、より厳しい交渉が待ち受けている。関係者もここから先は交渉が進展しているとは簡単には言えなくなるだろうし、仮にそうした楽観的な見方を示したとしても、市場が以前ほどには反応しなくなるのではないか。
また今回の関税引き下げは、これまでにアメリカが賦課した関税のごく一部にすぎないことも、忘れるべきではない。2018年に3回に分けて発動した、2500億ドルにおよぶ25%の関税に関しては一切手をつけておらず、景気への悪影響を軽減できるのかという点で見れば、あまり効果がないと言わざるをえないだろう。
10月や11月の経済指標に関しては、確かに予想を上回る内容のものも多かったが、何処から見ても強気の内容だったという訳ではない。肝心の企業景況感指数については低迷が続いているし、小売売上高など、これまで景気を牽引していた個人消費に関連する指標に鈍化の兆しが出てきたことも気になるところだ。
中国の景気に関しては、何をか言わんやであり、アメリカの関税引き下げが限定的なものにとどまったことを考えても、さらなる悪化は免れないと見ておいたほうがいいだろう。
関税の賦課は中国の景気を落ち込ませ、それによって譲歩を引き出すという戦略の一環なのだから、ここまで有効に作用していると考えることもできる。だが、中国の景気が落ち込めば、それがいずれは世界的に波及することも忘れるべきではない。この先も世界的に景気減速に対する懸念は残るし、経済指標も改めて悪化傾向が強まるのではないか。
摩擦は残り、新たな関税賦課のきっかけにも
産業への補助金をはじめとした難しい問題をすべて先送りしたうえでの第1弾の合意だったのだから、成果が限定的なものにとどまったのはむしろ必然ということができる。
そうした中で中国による米農産物の大量買い付けは、トランプ大統領が強調できるほぼ唯一の成果だった訳で、それだけに中国も見返りとしての関税撤回を強く求めていたという背景がある。結局中国側はコーンや小麦などの輸入を増やすという、極めてあいまいな表現でしか約束を表明せず、アメリカ側もごく一部の関税引き下げしか行わなかった。
現実問題として年間に500億ドルという、中国が貿易戦争の開始以前の水準の2倍を超えるような量を買いつけることは不可能だ。中国側があくまでも、「実際の需要に見合った買い付け」という一線を崩さなかったのは当然ということができるし、この先実際にアメリカが満足するだけの買い付けを行うのかは、極めて疑わしい。トランプ大統領が中国の買い付けペースの鈍さに不満を募らせれば、改めて追加関税の話を持ち出すことも十分にありうると見ておいたほがいいだろう。
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