2020年の米中貿易交渉が楽観視できない理由

「第1弾の合意成立」に安心してはいけない

もっともこの点について、とくに日本国内では自国の景気の急激な落ち込みや、香港などの政治問題を抱えて苦しんでいる習近平政権が、全面的に譲歩した結果という報道も目立つ。しかしながら、これは景気への影響が米中どちらのほうが深刻かという視点に立った、かなり偏った意見と考えておいたほうがいいだろう。

中には、アメリカに対して大幅に譲歩したにもかかわらず、アメリカからはほんの一部分の関税の引き下げしか得ることもできなかったという論調もあったが、これは完全に視点がずれている。実際に中国が大幅に譲歩したのであれば、アメリカはもっと関税を引き下げ、成果を大幅に強調させているはずだ。そのほうが株価もさらに上がるだろうし、トランプ大統領の再選にも有利に働くのは明らかだからだ。

関税の引き下げが限定的なものにとどまったのは、中国側が大幅に譲歩したのではなく、最低ラインを守ってしたたかに交渉を続けていることの表れと受け取っておくべきだ。

さて、こうした一連の流れに対して、市場はこの先どのように反応するのだろうか。市場は米中合意成立の発表以降、連日のように史上最高値を更新する強気の展開が続いているが、これはどちらかと言うと足元で米連邦準備制度理事会(FRB)が月に600億ドルというかつてないペースで短期債の購入を行い、バランスシートの拡大を続けることを背景とした投機資金の流入によるところが大きい。

こうした強気の流れには無理に逆らわないのが鉄則だが、一方では持続不可能な水準まで相場を押し上げてしまうのも事実。いずれはやってくると思われるバブルの崩壊に巻き込まれないためにも、ファンダメンタルズの流れはしっかりと把握しておいたほうがいい。ここからは米中貿易交渉や景気動向に関して、次にどのような材料やニュースが出てくるのかという視点から、今後の展開を占ってみることにしたい。

関係者の楽観的な発言は、これまでほど聞かれなくなる

2018年に米中両国が互いに関税を掛け合う貿易戦争が始まって以降で、アメリカが関税を部分的にせよ緩和するのは、今回が初めてだ。これはもちろん好感するべきことだし、将来的にこうした流れが強まるとの期待が高まることも十分に考えられよう。

しかしながら、今後は交渉の進展を示唆するような当局者の発言やニュースが、これまでのようにポンポンと飛び出してくるのかは疑わしい。2019年夏までの交渉の停滞ムードを一掃し、市場の期待を高めたのは、何よりも「難しい問題をすべて先送りし、できる部分だけで第1段階の合意をまとめ上げよう」という、「当初方針の大幅な変更」だったのは、誰の目にも明らかだ。

以前は完全な合意でなければ行う意味はないと、自らの要求を頑固に押し通し、強硬な姿勢を緩めなかったトランプ大統領も、まずは第1段階の合意をまとめるという方向に転換して以降は、合意が近いとの楽観的な見通しを何度もツイッターなどで発信し、そのたびに市場が反応し株価を押し上げるというパターンが続いていた。

次ページ懸念は、依然として大きく残ったまま
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