日本が「韓国文学」から受けたすさまじい衝撃 編集者たちが見る「ブームの背景」

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井口:『キム・ジヨン』を読んだら自分の体験を語りたくなりますよね。私も訳稿をいただいたときは、感想を語りたくなって大変でした。

「これは私の物語だ」の声が続々

斎藤:『キム・ジヨン』を読んだ人は、いわゆる海外文学ファンとはちょっと違うと思う。

『キム・ジヨン』のコメントがはられたパネルを置く書店も(写真: HMV&BOOKS HIBIYAコテージ)

海外文学ファンは、本好きがちょっと高い海外の小説を頑張って買って、本について語りたい人たちだと思うんですよ。『キム・ジヨン』はそうじゃなかったと思います。本についてというよりは、自分のことを語りたくなるという。

坂上:2017年、河出から刊行してヒットした若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』という作品も思い出しました。『おらおら』のサイン会で、50~60代の女性が「これは私の話だ」「ほんとに書いてくれてありがとう」と涙しながら若竹さんに言うんです。

斎藤:それ、私も思いました。

井口:そうか、『おらおら』とつながるんだ。

坂上:文学において「共感」の効果をどう考えるかという問題はありますが、「これは私の話である」と多くの人が感じたときに、いわゆる小説好き以外のところまで広がっていくんだなという感触はありますね。

『おらおら』も言ってみればフェミニズム小説といえると思います。高齢女性の感情のひだをぐいぐい読ませる形ですくい取って、ここまでのベストセラーになった文学が今までなかったですよね。

井口:『キム・ジヨン』は、K-POPのファンや、映画化された俳優のファンの方にも読まれたことで、今まであまり男女差別とかを意識しなかった方から「あの理不尽なことは女性差別だったのか」と初めて思い至った、という感想がたくさんありました。

昔は、男女差別が今より公然とありましたが、いま、直接そういう扱いを受けてこなかった人がこの本で初めて差別に気づいている意義は大きいと思います。

坂上:私もそうでした。「ああそうか、これ、そういえば差別だったんだよな」と自分がされてきたことを、本を読むことでわかるというか。内面化されすぎていて気づかなかったんですよね。

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