安倍晋三氏の改憲発言は正しいのか?
9月1日、自民党の安倍晋三幹事長は、広島で自民党総裁選出馬を宣言した際、自らの「公約」を発表しました。「美しい国、日本」と題された公約の内容を読むと、美しい日本ではなく「強い日本」を作ること、そのためには「全面的な憲法改正」を行い、「自衛軍の設置」と「集団的自衛権を認め、お互いに守り合う日米同盟」を進めなければならない、という安倍氏の決意を読み取ることができます。記者会見でも安倍氏は、「最優先公約は憲法改正」とも発言されたようです。
このように、安倍氏は、改憲を通じて世界第2位の経済力に見合った軍事力を整備し、日米関係を強化することによって、国際社会での発言権を強めていこうという考えを持っているようです。出馬宣言において、安倍氏が「21世紀の国家像にふさわしい新憲法制定に取り組む」と強調したことからも、その考えが読み取れます。 私には、安倍氏の発言の中で一つ気になったところがありました。それは『集団的自衛権は、憲法改正を行わなくとも、政府(内閣法制局)の憲法解釈を変更すれば認められる』というところです。
集団的自衛権とはなにか?
そもそも、集団的自衛権とは何でしょうか。
簡単に言うと、「集団的自衛権」とは、「他国と同盟を交わし、そのどちらかが攻められた場合、ともに行動し、当該国を守ること」です。これに対し、「個別的自衛権」とは「自国に対する急迫不正の侵害があったときにそれに反撃すること」をいいます。この二つの自衛権は、国連憲章第五十一条 [自衛権]で認められており、国連の集団安全保障が発動するまでの間に自衛を行うことができることとなっています。つまり、国連による紛争処理が行なわれるまでの間、同盟国と一緒に自国または同盟国を自衛することが集団的自衛権となります。
集団的自衛権をもっとわかりやすく解説すると右の図のようになります。 たとえば、X国がA国を攻撃したとします。そのとき、A国は、「個別的自衛権」を行使し、自国を守るため武力行使を行います。一方、同盟等を結んでいるB国は、自国が攻撃されたのではないのにもかかわらず、A国との同盟に基づき、X国に武力行使をします。これこそが「集団的自衛権」の行使です。
さて、現在の日米安保条約は、日本が侵略を受けた時、アメリカは日本を防衛する義務がありますが、日本国憲法が集団的自衛権を認めないため、日本はアメリカを防衛することはできない「片務的な条約」となっています。これが憲法改正の論点となっています。
今のところ、日本政府は、「個別的自衛権」について、「憲法第九条第一項は、独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められている」としており、わが国では1972年以来「集団的自衛権は有しているが、行使はできない 」という解釈を行なっています。つまり「自分自身を守ることはできても(個別的自衛権の行使)、他国と組んで互いに守りあうこと(集団的自衛権の行使)はできない」と憲法解釈で集団的自衛権を縛ったことになります。