安倍晋三氏の改憲発言は正しいのか?
アメリカと一緒に戦うべきか?
私は、集団的自衛権の否認は、他国の戦争に日本が巻き込まれないための防波堤となっていると考えます。たとえば、日米安全保障条約では、第五条に「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」とあり、防衛義務については片務的なものになっています。それゆえ自民党では多くの議員が「アメリカから守ってもらうだけではだめだ。日本もアメリカを守れるようにしなければならない」と説きます。自民党は憲法改正案において、明示はしていませんが、アメリカとの集団的自衛権を認めることとしています。
私は、集団的自衛権を認めることには絶対反対です。アメリカが戦後60年間に10を越える紛争に関与していることから考えても(下図参照)、集団的自衛権を認めれば、日本がアメリカの国際紛争に巻き込まれる可能性が格段に高くなると考えるからです。自民党は、集団的自衛権の行使については、「地域を限定する」、「国会の承認を義務付ける」という制限を課すことを提案していますが、私は、集団的自衛権を認めることに非常に不安を感じています。国民が選んだ議員が判断するから間違いはないとの意見もありますが、アメリカとの集団的自衛権を認めることは、イラク戦争やベトナム戦争といったアメリカの国際紛争にわが国が巻き込まれる可能性を著しく高めることになるのではないでしょうか。
なお、日米安全保障条約が片務的なものであるため、安全保障ただ乗り論が唱えられていますが、日本はアメリカに対し、防衛義務の見返りとして接受国支援体制を維持しており、金銭面・設備面での支援を行っています。また、アメリカの対アジア戦略を考えた場合、基地を日本に設置している意義は非常に大きく、安全保障上の便益からみると、決して不公平なものではないと考えられます。日本は武力によらない安全保障の確立(核兵器の拡散防止、大量破壊兵器の管理、小型武器の貿易管理など)と武力によらない国際貢献を実施することにより、アメリカを補完し、アメリカからも認められる地域的・国際的な貢献が可能であると考えます。
安倍氏の発言自体は間違っていない
自民党の改憲論に対し、共産党や社民党は、現行の憲法九条を堅持することにより、集団的自衛権を認めないとする護憲論を唱え続けています。
しかし、ここで注意しなければいけないことがあります。それはこの「憲法九条を堅持する」ことが、集団的自衛権を「完全に」否定することにはつながらないということです。なぜなら、『現行憲法が集団的自衛権の行使を認めないとの解釈は、内閣法制局、つまり政府の見解に過ぎない』からです。実は、安倍氏の「政府の憲法解釈を変更し、集団的自衛権を認める」という発言は正しいのです。
内閣法制局の「日本国憲法では集団的自衛権は認められない」との解釈は、『法制局が解釈を変更するようなことがあれば、現行憲法の下でも集団的自衛権を容認する』という事態にもなりうるのです。つまり、内閣法制局の集団的自衛権の行使は認められないとの解釈は、立法府である国会の立法活動を縛ることはできず、国会は「集団的自衛権を認める法律を作る」ことができるわけです。
このように現行の憲法九条を護るだけでは、集団的自衛権を完全に否定することはできません。私は、憲法九条の理念を護るためにも、「集団的自衛権を否定する」旨を憲法に明記する必要があると考えます。具体的には、憲法九条に3項を追加し、「自衛隊の明記」、「領土外での武力行使の禁止」を明確にした改憲を提案しています。これを叩き台として、さらに議論を進めるつもりです。ちなみに、私の考える憲法九条改正案は以下の通りです。
憲法九条改正私案
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
3 国内外における平和維持活動の実働部隊として、自衛隊を設置する。領土、領空及び領海外における武力行使は、これを認めない。
藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。参議院議員。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。著書に『挑戦!20代起業の必勝ルール 』(河出書房新社)など
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