8050問題「親亡き後の死体遺棄事件」を生む悲惨 中高年引きこもりは支援から取りこぼされる

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逮捕された長男は、捜査員とも筆談でやりとりをしたという。それでも、逮捕時には実名で報道され、一部のメディアでは顔まで流された。

筆者は長男の逮捕後、妹から相談を受け、すぐに弁護士を紹介した。弁護士は翌日には警察署に接見に行ってくれて、やはり長男と筆談でやりとりした。弁護士が交渉してくれたこともあり、長男はその後、不起訴になって釈放され、自宅に戻ることができた。

妹が実家に入ると、部屋からは「私やあなたが死のうと思ったときは一緒に死のうね」とつづられた母の長男に宛てた置き手紙も発見された。

遺体発見当時、部屋には数十万円の現金と、通帳にも貯金が残されていた。母親が長男の生活費のために残していったものだと思われる。

一方、発見されるまでの半月間、長男が家の中にある食べ物をあさったのか、冷蔵庫の中は空っぽだった。エアコンは長期間使用された形跡がなかった。2018年の夏は猛暑だったにもかかわらず、節約していたのかもしれない。

家族とも置き手紙でやりとり

長男は、事件当時49歳。幼稚園の頃は、友だちとは話すのに先生とはいっさい話さない状態で、小学校に入学してからも同じ状態が続いたという。母親が教育相談に行くと、「緘黙の疑い」があると告げられた。小学5年の頃から学校にも行かなくなり、「怖い」と言って、自室にこもるようになった。

それでも、10代後半になるまで家にいるときは家族と普通に会話もし、共に外出もしていた。しかし、高校生くらいから、家族との会話も徐々になくなっていく。コミュニケーションは、置き手紙で行うようになった。

2013年に父親が他界したときも、長男は家から出られず、葬式にも出席しなかった。父親はそれまで、長男がひきこもっていることを親戚にも隠してきた。葬儀のとき親戚から「あれ、お兄ちゃんは?」と言われ、初めて知られることになったという。

父親が亡くなってから、長男は母親との2人暮らしになった。当初、長男は自室の戸を閉め切っていた。ところが、「寂しい」と母親が漏らすと、長男は戸を開けるようになったという。以来、長男は、皿洗いをしたり、家庭菜園をしたり、捨てる段ボールをまとめておいてくれたりと、生活の手助けになるような家事をこなしていたことが、記録から読み取れる。

長男は会話をしないながらも、母親が家庭菜園の種を「買ってこようか」と置き手紙を置いておくと、「買ってきて」と手紙で返事をしたり、収穫した野菜を「収穫したから食べて」という手紙とともに置いておいたりするなど、母親との間にはコミュニケーションがあった。

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