8050問題「親亡き後の死体遺棄事件」を生む悲惨 中高年引きこもりは支援から取りこぼされる

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「母が死んだことが現実になってしまうから……」

長女は、初公判の被告人質問で次のように証言した。

2015年頃、母親が寝たきりになったので、長女は介護のために仕事を辞めた。いわゆる“介護離職”だ。

母とは唯一、何でも話せるような関係だった。

「毎日、買い物や散歩に行ったりしていました。子どもの頃、デパートでぬいぐるみを買ってもらったり、レストランで一緒に食事したり、遊園地に行ったりしていました。今までいろいろ話を聞いてくれた恩返しのために、一生懸命介護しました」

ところが、2018年1月頃、母親は冷たくなっていた。声をかけても反応がなかったことから、長女にも、亡くなったことはわかっていた。

「母はカンのいい人で、自分が亡くなる夢を見たらしく、死ぬのがわかっていた。とてもつらかった」

長女は、別れるのが悲しくて、母の死を受け入れることができなかった。

なぜ、自ら発信することができなかったのか。なぜ、母親の死を誰にも告げることができなかったのか。法廷で、何度もそう質問された長女は、「それを言うことによって、母が死んだことを認めることになり、現実になってしまう。どんどん月日が経ってしまって、どうしても認めることができなかった」と繰り返した。

母親を失えば、楽しかった頃の思い出を失うことになり、社会で生きていく意味や希望を見いだせなくなる、ということだったのだろうか。

40年ひきこもり状態の長男が母親の遺体を放置

この頃、神奈川県内では似たような事件が頻発していた。

2018年11月5日、横浜市金沢区で親子2人暮らしだった当時49歳の長男が、76歳の母親の遺体を半月ほど放置したとして、死体遺棄容疑で逮捕された。神奈川県警金沢署などによれば、母親は「凍死」だった。

長男は、約40年にわたり、ひきこもり状態にあった。小学生の頃から他人と会話ができなくなり、自室から外に出ることもなく、母が生活を支えていた。

母親が亡くなったとき、自宅には、アナログの着信番号の出ない固定電話しかなかった。携帯も持たず、警察に知らせたくても連絡を取ることは不可能だったと思われる。

別居していた妹の携帯には、1度だけ着信の履歴が残っていた。妹は、母親が電話をかけたのかと思い、自宅にかけ直したが誰も出なかった。

「兄は、母の異変を自分に知らせたかったのではないか」

妹は今、そう振り返る。その1カ月後、妹が気になって実家を訪ね、変わり果てた姿の母親を発見した。母の遺体の上には、布団がかけられていた。

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