しかし付き合って3、4カ月経った頃、徐々に彼女のネガティブ思考が気になるように。
「彼女はなんでもマイナスに捉えるんですよ。私は仕事が遅くてもう無理だとか、結婚話が出ても子どもができなかったらどうしようとか……とか」
一度スイッチが入るとネガティブ発言が止まらなかったという。
また佐藤さんを困惑させたのは、マンションへのこだわりの強さだった。
「どうしてマンション持ってないの? これからどうやって生活するの?と問い詰められていました。僕はフリーランスだし、すぐには買えないと説明しても、そんなんでどうするの? 心配じゃないの?と言われてしまう。それなら2人で頑張ってお金を貯めればいいんじゃない?と提案しても、私はそういうことはあまりしたくないし、私は月10万くらい稼げば十分だと。マンションが買えないのは僕の年収が低いせいだと言われるんです。
しかも彼女は、うんと広くてゲストルームにお客さんを呼べるようなマンションがいいと、当たり前のように言うんですよ。年収450万くらいをさまよう俺に言うか?と……」
さらに彼女からの訴えは続く。
「フリーランスは不安定で心配だと言われました。確かに毎年年収は変動するし、先行き不安定なのは認めます。でもね、一般企業に勤めても潰れる可能性あるよって。一緒に苦労すればいいじゃないって」
確かにそうだ。会社に入れば安心だという時代はとうに過ぎ、終身雇用も崩壊した。一方、佐藤さんは大学を卒業して以来20年、会社に属さずずっとフリーで働いてきた。収入が多い年も少ない年も乗り越えて、なんだかんだやってきたという自負はあるだろう。
しかし、一般企業の社員でしか働いた経験がなく、安定した給料をもらってきた彼女には、理解できなかったようだ。夫がフリーランスという状態は、人によっては覚悟がいることなのだろうか。
きつい口調は悪意がなくても・・・
こうして彼女のネガティブ要素を感じつつも、それを凌駕するくらい愛情も深まってきた。いよいよ僕も、40過ぎて結婚か。ティファニーが好きな彼女のために、内緒で指輪を見に行ったという。付き合って1年後にはプロポーズしよう……そう覚悟を決めた1週間後、突然、彼女から別れ話を切り出される。
「あなたのきつい口調や言葉に耐え切れないと、バッサリでした。確かに今まで彼女や、仕事仲間からも、何度か言われたことはあったんです。関西弁がきついのか、僕の言い方が偉そうに聞こえるらしくて」
周りから忠告を受けつつも、大したことではないと流していたそう。
本人に自覚がなくとも、きつい言葉を発する人にはどこか小さく構えるし、口を噤んでしまうクセがつく。
別れて1カ月程度は未練たらたらだった。彼女にLINEを送っても既読スルー。昼間からウイスキーを飲んでも一向に酔わず、テレビを見ても面白くない。絶望ってこんな感じなのかと実感したという。
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