中村哲医師が語っていた非軍事支援の重大意義

アフガニスタン復興に懸けた思いは砕かれた

中村哲医師が銃撃されアフガニスタンでも深い悲しみが広がっている(写真:AP/アフロ)
12月4日、アフガニスタン東部で銃撃され死亡した福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」現地代表の中村哲(なかむら・てつ)医師(73歳)は、診療だけでなく、治安回復のために現地で農業用水路事業に取り組んでいた。
東洋経済では中村哲医師から「非軍事支援こそ日本の安全保障」というテーマで2007年秋に寄稿いただいた内容を再掲する。

非軍事支援こそ日本の安全保障

テロ特措法に代わる新法の是非について議論されているが、肝心なことが欠落している。テロ特措法や新法が支援するアメリカの「不朽の自由作戦」によって、アフガニスタンで何が起きているのかを、まず考えるべきだ。正直言うと、こういう議論は現場の悲惨さを見ない観念的、政治的なもので、その議論には加わりたくない。

では、アフガニスタンでは何が起こっているのか。端的に言うと、30年にわたる戦争、内乱、空爆という人災と2000年に始まった干ばつという天災で、国土が荒れ、干ばつ以前には9割を超えた穀物自給率が6割以下に激減した。アフガニスタンという国は伝統的農業国で、国民の8割以上が農民である。その国民の半数近くが食を満たせずにおり、隣国パキスタンには300万人近い人々が、いまだに難民としての不安定な生活を強いられている。

そういう食うや食わずの土地に毎日空爆が繰り返され、巻き添えを食った罪のない人々が殺されている。人々の間では日に日に反米感情が高まり、それを背景に反政府勢力が支配を強めつつあり、それをまた米軍やISAF(国際治安支援部隊)が攻撃する悪循環に陥っている。それが日本が支援する「対テロ戦争」の実態だ。2002年東京のアフガン復興支援会議で決められた復興資金45億ドルに対し消費された戦費は300億ドル、何かが狂っているのだ。

私たちペシャワール会は本来医療団体で、20年以上にわたって病院を運営してきたが、「農村の復興こそ、アフガン再建の基礎」と認識し、今年8月までに井戸1500本を堀り、農業用水路は第1期13キロメートルを竣工、すでに5000町歩を潤し、さらに数千町歩の灌漑が目前に迫っている。総工費は9億円、述べ38万人の失業対策にもなった。それを耳にした多くの干ばつ避難民が村に戻ってきている。

現地の人々が望んでいるのは、治安の安定と生きるための仕事である。それがなければ、難民になるか、米軍や軍閥の傭兵になるしかない。そういう人々の上に爆弾を降らし、それを新法は支援しようとしているのだ。

日本政府もすでに復興支援(インフラ整備や軍閥の武装解除)に1200億円以上、戦争支援(自衛隊による給油活動)に、公称600億円以上を費やしている。政府が「国際社会」における日本のプレゼンスを言うなら、どちらを強調すべきかは明らかだろう。

「殺しながら助ける」支援というものがありうるのか。干渉せず、生命を尊ぶ協力こそが、対立を和らげ、武力以上の現実的な「安全保障」になることがある。これまで現地が親日的であった歴史的根拠の一つは、戦後日本が他国の紛争に軍事介入しなかったことにあった。他人事ではない。新法あるいはISAF参加によって同盟軍と見なされれば、反日感情に火がつき、アフガンで活動をする私たちの命が脅かされるのは必至である。

『金融ビジネス Autumn 2007』(東洋経済新報社)掲載記事より

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