89歳の要介護女性がヤマトの荷物運ぶ深い理由 「要介護者に活動の場を」大牟田市の挑戦

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

浦さんはこう話す。

「配達がリハビリになり、内田さんのやりがいにもなっています。地域の人と顔見知りになれば、内田さんが一人で外出したときも見守ってもらえます。

危ない道はスタッフがさりげなく内田さんをサポートしていた(筆者撮影)

内田さんに触発されたのか、ほかの利用者さんが施設にエプロンを持ってきて手伝ってくれたり、自宅で家事を始めて『家にいてもらうと助かる』と家族に喜ばれたり、要介護度が下がった人もいるんですよ。

介護されるようになっても、人の役に立つことは心身に大きな効果があるのだと思います。利用者さん一人ひとりがやりたいことを一緒に見つけていきたい」

荷物の配達だけでなく、大牟田市では要介護の高齢者が市内の企業や事業所で働くという取り組みが広がっている。業務内容は、カーディーラーでの洗車、コインランドリーの清掃、農家の手伝いなどさまざまだ。

企業と介護施設連携の仕掛け人

企業と介護施設の連携を実現すべく、奮闘する人がいる。社会福祉士・介護支援専門員の猿渡進平さん(38歳)。大牟田市で生まれ育ち、患者の平均年齢86歳の白川病院で地域連携室長を務めつつ、大牟田市のよろず相談員という顔も持つ。

企業と介護施設連携の仕掛人である猿渡進平さん。祖母の認知症をきっかけに福祉に道に進み、2002年白川病院に就職。高齢者が自宅に住み続けられる地域づくりを実践中(筆者撮影)

猿渡さんは、誰もが地域で暮らし続けられるように、さまざまな組織の設立や運営などに尽力。要介護高齢者が働くことに賛同してくれる介護事業者と企業を探すために60件以上を訪問してきた。

「前例がない」「フォローする人手が足りない」などの理由で断られても、「誰かが突破しなければ」と粘り強く探してきた。ヤマト運輸にとって介護事業者との連携は初の試みだったが、今では市内いくつかの事業者に広がっている。

ホンダカーズ大牟田北手鎌店では、デイサービスの利用者が展示車の洗車を担当する。「親の介護を経験した社長が賛同してくれて、主に車好きな高齢者が働いています。60代の男性は、妻に迷惑をかけてきたからと洗車の賃金でジャムパンを買って帰ったところ、『私がジャムパンを好きって覚えててくれたの? ありがとう』と感激されたそうです。働くことは、賃金以上の価値を生みますよね」と猿渡さん。

次ページ大牟田市は高齢化進む日本の20年先の姿
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事