不登校の小中学生、大学が「居場所」になるのか 福岡の筑紫女学園大学が新事業を始めた理由

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同行していたつばさ学級の教員は、こう話す。

「不登校のきっかけは、いじめとかではないんです。イライラをコントロールできずに先生や友達とトラブルになったり、学校の大人数の前では自分を表現できずにかたまっちゃったり。

活動の最後は、大学の食堂に集まって帰りの会(筆者撮影)

つばさでは一人ひとりに寄り添い、安心感を大切にしています。対人が苦手な子には『例えば、こういうときはどうしたらいいと思う?』『相手はどう感じるかな?』と問いかけたり、毎週水曜はチャレンジの日として、できれば自分の学校に登校しようと提案したりしています。でも、決して無理強いはしません。子どものエネルギーが回復したら、歩き出してくれるとわかっているから」

かつての教え子は、高校を転校しながらも卒業して大学生になった。「つい先日、不登校児に関わるボランティアをしたいと連絡をもらいました。『僕はあの中学の生活を大事に思っている』と言ってくれて、うれしかったです……」と目を細める。

大西良(おおにし りょう)/筑紫女学園大学准教授。子どもの貧困と心理、社会福祉に関する研究と実践を行っている(筆者撮影)

事業を担当する筑女大の大西良准教授が、子どもに関わる活動を始めたのは10年ほど前。夜間に徘徊していた女子中学生に勉強を教えてほしいと、保護司から依頼されたことがきっかけだった。

満足にご飯を食べたりお風呂に入ったりしていない子どもにも出会い、「居場所」が必要と痛感。大学生と一緒に、子ども食堂や学習支援、生活支援などの場を作ってきた。

昨年、大学内の子ども食堂に教育委員会の職員が見学に来て、「大学で不登校の子どもたちを支援できるのでは」と奔走したことが、キャンパス・スマイル事業の実現につながった。

大学が子どもたちの居場所となる

「ここ数年で日本の教育界は大きな方向転換をしました。以前は不登校になると学校へ戻ることが第一でしたが、今は社会に出ていけるように支援する方向になっています」と大西さん。

「キャンパス・スマイルのおかげで学校に戻れたと報告してもらったこともあります。もちろんとてもうれしい。ただ、無理して学校に復帰しなくてもいい。子どもがのちのち自立して、社会で生活していくことが大切なんです。まずはここに来てくれることがありがたい。大学が子どもたちの居場所となり、休息と活動でエネルギーをためて、自分で動き出すのをサポートしたい。

大学生が相手なら身近なお姉さんのように感じて、自分の趣味や思いを話しやすく、少し先の自分のことを考えるきっかけにもなっているようです。これからも教育委員会と連携しながら、よりよい取り組みを広げていきたいです」

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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