イギリスの総選挙と「ブレグジット」のゆくえ 12月12日に行われる総選挙が「分岐点」となる

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関税上の境界線を実質的にアイルランド海に設定することで、アイルランド国境での通関手続きが不要になるというわけである。これにより、アイルランド国境における自由な往来という和平合意の原則を維持することが可能となる。なお、英国本土からの商品が英領である北アイルランド内にとどまる場合には、アイルランド海を渡る際に徴収されたEUの関税を還付する手続きが適用されることになっていた。

英国側の譲歩をEU側は歓迎し、先述のようにEU首脳会議で新たな離脱協定案について合意に至った。その後、離脱協定案の承認手続きに関して、EU側については問題視されていなかったが、英国側については、はたして議会の承認が得られるかどうかが懸念された。メイ首相の離脱協定案を3度否決した英国議会が、新たな離脱協定案を承認するかどうか定かではなかったのである。

ちなみに、アイルランド国境問題をめぐる修正を除けば、新旧の離脱協定案に大きな違いはない。離脱後の関係についての政治宣言が若干改訂された以外は、離脱清算金、EU在住英国国民と英国在住EU市民の権利、2020年末までの移行期間など、ほぼ以前の内容が踏襲されていた。

しかし、バックストップに代わる新たな枠組みを提示したことで、ジョンソン首相の離脱協定案は保守党の強硬な欧州懐疑派の支持を取り付ける可能性が高くなった。彼らが問題視していたのは、バックストップによって英国がEUの関税同盟に留められ、第三国との間で貿易協定の締結ができないことであった。この点、新たな離脱協定案は、EU離脱後の移行期間終了とともに、英国は自由に貿易協定を結ぶことができるようになっていた。

「合意なき離脱」の回避から総選挙へ

ただ、議会での承認に関して新たな離脱協定案には問題があった。英国本土と北アイルランドの間で関税に関する事実上の国境が発生することに対して、保守党政権に閣外協力を行っていた民主統一党が激しく反発し、反対姿勢を明確にしたのである。民主統一党にとっては、北アイルランドを英国本土と固く結びつけておくことが最重要の課題であり、それを危険にさらす離脱協定案は容認しがたいものであった。

ただ、ジョンソン首相にとって民主統一党の反対は織り込み済みのリスクだったかもしれない。なぜなら、民主統一党が反対したとしても、メイ首相の離脱協定案に反対した強硬な欧州懐疑派の保守党議員が賛成に回り、さらに労働党や無所属の議員の賛成票を一定数獲得できれば、賛成多数を確保するメドが立つからであった。

実際、離脱協定案は可決されるという見方もあった。しかし、事態は再び想定外の展開を見せ、先述のように修正動議が可決したことで、ジョンソン首相はそれまで否定してきた10月末の離脱期限延長について、EUへの申請を余儀なくされたのである。

離脱期限の延長申請を強いられたジョンソン首相は、10月末でのEU離脱達成に向けた最後の努力を見せた。離脱協定案に関する修正動議は、10月末での離脱を否定するものではなく、離脱協定関連法案が成立するまで協定案に対する議会の承認を留保するものであった。それゆえ、現実的には可能性が高いとはいえなかったが、10月末までに法案を成立させて離脱協定案への承認を確保できれば、ジョンソン首相は公約である10月末までの離脱という目標を実現できるはずだった。

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