イギリスの総選挙と「ブレグジット」のゆくえ 12月12日に行われる総選挙が「分岐点」となる
一方、メイ首相の離脱協定案について、アイルランド国境問題に関するバックストップ(離脱後の国境における自由な往来を可能にする英EU間の経済協定が締結されるまでの次善の策)の撤回を求めるジョンソン首相の要求をEUが受け入れなかったために、離脱交渉にはまったく進展が見られなかった。交渉が膠着状態に陥ったことから、ジョンソン首相は離脱交渉の時間切れで「合意なき離脱」になることを望んでいるのではないかという疑念も示された。
こうした疑念を強めたのが、ジョンソン首相が9月中旬から10月中旬にかけて議会の閉会を決めたことであった。
離脱期限が迫る中で5週間もの異例の長期間にわたって議会を開かないのは、「合意なき離脱」を阻止する動きを無力化するための策謀であるとして強く批判された。結局、議会の承認なしに「合意なき離脱」が到来する事態を避けるために、EU首脳会議までに新たな離脱協定案が合意され、それに対して議会が承認を与えるか、あるいは、「合意なき離脱」を議会が承認しなければ、EUに対して再度離脱期限延長を申請することを政府に義務づける法律が閉会直前に制定された。
なお、政府による長期の閉会を違法とする最高裁判決が出されたことで、9月下旬に議会は再開された。
議会の長期閉会を狙ったジョンソン首相の策は、結果的に政権基盤に大きな打撃をもたらした。なぜなら、「合意なき離脱」を阻止する法案に対して、党議拘束を破って保守党議員の中から少なくない賛成票が投じられたが、ジョンソン首相が造反議員の保守党会派所属を否定したことから、過半数を持たない保守党の議席がさらに減少したからである。
「アイルランド国境問題」で英国が譲歩
10月初旬にジョンソン首相はメイ首相の離脱協定案に代わる新たな提案を行った。その概要は、ジョンソン首相が問題視するアイルランド国境問題に関するバックストップに代わって、英国が全体としてEUの関税同盟から離脱する一方、北アイルランドが農産物や工業製品に関するEUの基準や規制の適用を受けることで、国境での検査を不要にするというものであった。
バックストップでは英国全体が実質的にEUの関税同盟に留められるために、第三国との間でEUとは異なる英国独自の貿易協定が結べないという問題があったことから、これを排除したのである。
しかし、EU側からすると新提案には受け入れがたい点があった。それは、北アイルランドがEUの関税同盟から抜けることで、アイルランド国境において通関手続きが必要になるという問題であった。ジョンソン首相の提案は北アイルランド紛争の和平合意に示された国境での自由な往来を保障するものではない、という点が問題とされたのである。
これを受けて、ジョンソン首相は提案修正に踏み切った。それは、北アイルランドを含む英国全体が法的にはEUの関税同盟から離脱するという原則を維持しつつ、アイルランド国境での通関手続きを回避するために、英国本土(グレート・ブリテン島)と北アイルランドの間で通関手続きを実施するという内容であった。
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