マイナンバー「25%還元」は大化けするか マイナポイントが所得格差是正のツールに

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ただ、それは有効に活用されていない。つまり、所得税や住民税の課税額を計算する際に使われているが、それを他の用途には使っていない。今後、所得格差の是正策として、低所得者にはきちんと給付し、高所得者には給付しないというメリハリをつけたいなら、マイナンバーを用いて捕捉した所得の情報を活用する必要がある。

他方、これまでの給付は現金で渡すか、手続きをとって銀行振込みするしかなかった。それでは給付に多大なコストがかかる。銀行口座にマイナンバーを付番することが法律上認められているが、その体制が整っていない。銀行業界も、口座へのマイナンバー付番に積極的とは言えない。

ベーシックインカムの発想も実現可能に

しかし、マイナポイントがこのほど新設されることになった。多くの人がマイナポイントを使えるようになれば、国から個人に直接給付できるようになる。しかも、銀行口座にマイナンバーが付番されていなくてよい(もちろん、仕組みを今後整えてマイナポイントと銀行口座を個人でひもづけられるようにすることもできよう)。加えて、市町村の窓口に給付業務を委ねる必要はないから、行政の事務コストはかなり減る。

マイナンバーを用いて捕捉した所得情報と、マイナポイントを使った給付という組み合わせなら、所得の多寡に応じてきめ細かく給付する政策もできる。ベーシックインカムの発想も取り入れられるかもしれない。

2020年9月から2021年3月までの7カ月間に、マイナンバーカードを持つ人には25%のポイント還元を行う政策は、残念ながらまだそこまでの体制が整っていない。その結果、高所得者にも最大5000円のポイント還元が行われてしまう。

しかし、この政策を契機に、政策手段のインフラとしてマイナンバーカードとマイナポイントが普及すれば、今後「大化け」するかもしれない。世界的にもベーシックインカムが議論されながら具体化できていないが、行政のICT化後進国といわれた日本で、諸外国に先駆けてそうした政策が実現できる日が来るかもしれない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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