長年の「鉄道の課題」は2020年代に解決できるか 鉄道総研が取り組む研究開発の一端

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こうしたレーザー光や画像処理を用いた自動計測はすでに当然であってよさそうに思えたが、例えば軌道の検測について慣性正矢法という手法が確立したのはわずか十年ほど前のことであり、それによって装置がコンパクト化され営業車両に搭載して計測することが可能になった。

また、このような緻密なデータを得ることで、自動診断や故障予測からさらに進んで、保守計画を自動的に作成できるまでの研究にも取り組んでゆく。そうした流れにおいては、現在の定期検査による予防保守方式から、変化や故障の予兆を危険に至らない段階で捉えて修繕に臨む状態監視方式への移行といったことも考えられる。

駅や線路内における異常の感知、踏切の障害物検知能力の向上、また、乗務員の眠気や集中度の低下に対し警告を促すなどの人の脳内活動と意思決定の関係を追究した運転支援手法も、デジタル化の進展により研究が進んでいる。

基礎研究に新たな可能性

ICTが進歩を遂げている結果、鉄道の基礎的な研究にも新たな可能性が拓けてきた。

『鉄道ジャーナル』2020年1月号(11月21日発売)。特集は「10年後の未来」(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

例えば、何でもない個所での脱線、あるいはレールの波状摩耗といった現象さえ、百数十年を経た鉄道においてもいまだ解明されていないと言う。レールと車輪、架線とパンタグラフの相互間で発生する摩耗自体が未解明である。その理由は、鉄道側のハードだけでなく、季節や天候、温度や湿度といった自然の微妙な変化にも影響され、現実的にすべての条件を再現することができないこと。そのために数式化できていないのだ。

鉄道総研の敷地の中には、実物車両を実際の営業速度域で走行試験できる線路はない。そこで取り組まれてきたのが、シミュレーション技術の高度化であった。力学系の要素が主体であるが、構造物の運動、軌道の運動、車両や台車の運動、架線の運動など、従来は個別に研究されていた内容を結び付けて再現できる「バーチャル試験線」がおおむね実現の域に達している。現在、複数の要素を組み合わせた結果を連携させることができるように、プラットフォーム作りを目指している。

期間や時間が限定される営業線上の実地試験では多くの内容を盛り込めず、安全な速度域を超える速度向上もできない。しかしバーチャル試験線ならば、現地試験に向けて周辺的な項目を確認しておくこと、現実を上回る速度域の再現もコンピューターの中で可能になる。

ただ、シミュレーションは当然ながら人の考えが及ぶ範囲の条件しか与えられない。現地試験の重要性は変わることなく、また、空気回りのシミュレーションとのリンクはまだ達成されていないなど、やはり今後に期することは尽きない。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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