日本企業が米国企業に絶対勝てない最大理由 トヨタを超えたい企業はサードドアを開け

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『サードドア』も、アレックスが数々のビッグネームに会おうとして次々と失敗を重ねていきます。人の失敗というものは、同じような経験をした人でないと、つまらないことに見えてしまう。でも僕は、人間にとっても企業にとっても、いい製品やサービスを作っていくためのプロセスとして、失敗の積み重ねがなによりも重要だと考えています。

今は大学で指導していますが、残念ながら日本には、アレックスのような、失敗を恐れずに手を挙げる若者を育てる土壌がないように感じています。

アメリカは190以上の国から人が集まっています。つまり、190以上の文化が集まっているわけです。文化というのは排他性を持ち、ぶつかり合うことで、ある共通性を生み出していきます。このぶつかり合いが絶えずアメリカにはあり、誰にでも共通する普遍性、つまりアメリカ文明が生まれる土壌ができている。そこにビジネスチャンスがあるわけです。

だからこそ、スマホのようなものが生まれる。日本にはスマホを作る技術はあっても、ああいうものを商品化していく発想がありません。もともと固定電話がある世界で、あるものの改善はできても、新規の発想は難しい。いまだに「ソニーはいい」なんて言っているんですから。

そもそも日本人同士だと言葉がよく通じますから、違うものとぶつかることもないし、摩擦がない。しかし、まったく違うビジネスをやっている人が集まって議論するなど、異なった考え方や体験を持つ人と衝突していかなければ、啓発される部分は少ないんです。

やはり、日本人ももっと新しい体験をしたほうがいいですね。一度なにかを体験すると、別の新しい体験をしたくなるものです。僕自身がそうでした。なにかをやったことで、やっぱりこれもやらなければならないんだという、新たな課題が見えてくるんです。

課題設定能力。これがないと人間は前進できません。企業も同じです。先入観に凝り固まって、手を挙げなくなると、新しい発想もできなくなります。

人生はすべてに未来への意味がある

僕は、自分の人生において、高卒で26年間も働いた時代があったということに、全部意味があったと思っています。郵便局に入ったことも、組合の専従になり、左翼にかぶれたことも、政治活動に飛び込んだことにも意味があった。そういう体験がなければ、英語もできないのにアメリカへ行ってみようという発想は持てませんでしたから。

アメリカから帰ったあとは、1年間みっちり金融の猛勉強をしたんですよ。そうして体験が積み上げられたところに、また出会いが生まれて、なにかが発露し、新しい展開が広がった。92年に高橋亀吉賞をいただいたあとは、『週刊東洋経済』で原稿を書くようもなりましたし、そこから各出版社、新聞社から声をかけていただき、NHKなどにも出させていただいて、今の大学教授という職につながっています。

僕の受け持った学生にも、たまに冒険するのがいますよ。マレーシアやフィリピンのスラムへ、何週間も支援活動に行ったりするんです。そういう学生は割と伸びる傾向があるんですよ。自分の今の経験と違うものを重ねていくこと、それが、サードドア的人生ということだと僕は思っています。

(構成:泉美木蘭)

中沢 孝夫 福井県立大学名誉教授

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なかざわ たかお / Takao Nakazawa

1944年生まれ。博士(経営学)。ものづくり論、中小企業論、人材育成論を専門とする。高校卒業後、郵便局勤務から全逓本部を経て、20年以上の社会人経験を経た後に45歳で立教大学法学部に入学を果たす。1993年同校卒業。1100社(そのうち100社は海外)の聞き取り調査を行っている。著書に『転職の前に―ーノンエリートのキャリアの活かし方』(ちくま新書)。

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