ヤマト「アマゾンの仕事が戻らない」誤算の真因 「荷主の離反」に株価は直近ピーク時の半値へ

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10月31日の決算会見でヤマトHDの芝﨑健一副社長は「(アマゾンに対する)値下げの事実はない」と語っている。ただ、あるデリバリープロバイダの幹部は「2018年1月のヤマトによるアマゾンへの値上げは、個数が増えるごとに値段が上がる累進課税的な仕組みだった。ヤマトは今回、この条件を放棄したようだ」と話す。

2019年2月の社長就任会見に出席した長尾裕社長(写真左、記者撮影)

そのうえで「一部地域では、現状より1割強安い約360円で妥結する方向で交渉が進んでいる」(同幹部)という。また別の物流関係者は「一定を超える数量の荷物をアマゾンが出荷した際、ヤマトからアマゾンに金銭的な補助をするリベート的な契約が盛り込まれた可能性がある」と説明する。

こうした関係者の証言を総合すると、「事実上の値下げ」と言える合意が両者の間であるのは確かなようだ。この点について、ヤマトHDは「個別の企業との契約内容になるため回答を控えるが、宅急便の数量拡大のために値下げを行うことはない。同社(=アマゾン)とは、つねに適正かつよりよいサービスに向けた協議を行っている」と回答した。

株価は直近ピーク時の半値で推移

アマゾンに事実上の値下げをしたことで憤るのは、ヤマトの現場で働く社員と値上げをのまされたアマゾン以外の荷主だろう。あるヤマト関係者は「ヤマトの幹部が6月頃、荷物の量が戻らないことに対し『蛇口をひねれば大丈夫』ということを言っていた。いつでもアマゾンの荷物は戻ってくるという意味の発言だが、見通しが甘すぎる。これまでの働き方改革とも逆行する」と語る。

また、ある日用品ECメーカー関係者は「アマゾンだけに値下げするのは不公平だ。われわれも値下げをしてほしい」と漏らす。

一連の混乱も反映して、ヤマトHDの株価は2018年9月にピーク(3506円)をつけた後、およそ半値まで低迷している(11月11日の終値は1802円)。9月中旬にはアメリカ運用大手のキャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント・カンパニーが、保有する7.05%の株式すべてを売却し、一時ヤマトHDの株価が前日比9%安まで急落する場面があった。「業績回復の見込みが立たないと判断し、損切りせざるをえなくなったようだ」(市場関係者)。

JPモルガン証券の姫野良太アナリストは「荷主の離反はヤマトHDが考えているより深刻な可能性があり、下期の修正計画達成も現時点ではハードルが高い印象がある」と指摘する。

ヤマトグループは、11月29日に創業100周年を迎えるが、次の100年を見通すことができない五里霧中状態にある。2019年4月に社長に就任した長尾裕氏はこの間対外的な発信をほとんど行っておらず、リーダーシップを発揮すべき局面を迎えている。

二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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