箱根の台風被害で問われる「災害報道」のあり方 「温泉供給停止施設数」の報道は適切だったか

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一部遊歩道が立ち入り可能になり、観光客が戻った仙石原のススキ草原(筆者撮影)

ただし、電車に比べるとバスの輸送量には限界があることや、紅葉シーズンの渋滞が懸念されることから、「とくにマイカーの方には、ゴールデンルートを逆回りで巡っていただくようお願いしている。小田原方面から箱根新道で箱根町港・元箱根方面に上っていただき、各所を巡った後、最後に湯本方面に下りるコースであれば、比較的スムーズに移動できると思う」と佐藤氏は話す。

このほか、全館休業を余儀なくされている宿泊施設が「4~5軒」(佐藤氏)あり、一部のゴルフ場が閉鎖されていたりするものの、箱根を実際に訪れてみると想像よりも早く全体的な復旧が進み、客足も戻りつつある印象を受ける。

温泉に関する過大な被害報道

箱根の1日当たりの降水量が922.5ミリと観測史上最高を記録し、登山鉄道が大きな被害を受けるなどシンボリックな出来事があったこともあるだろうが、一部のメディアが実態以上に台風19号による被害を大きく報じ、一種の風評被害が発生しているのではないかと思える節がある。特筆すべきなのが「温泉供給停止施設数」に関する報道だ。

【2019年11月6日11時00分 追記】降水量の表記に誤りがあったため、本文を修正しました。

箱根DMOは、台風から10日後の10月23日に、小田原記者クラブ向けに以下の情報をリリースした。

【温泉の供給が止まっている旅館・ホテル】
軒数:99軒(箱根町の旅館・ホテル数265軒のうち約37%)
※265軒は箱根町・箱根DMOで集計している施設数
該当地域:強羅・仙石原の一部

99軒という数字は、パイプの破損など温泉の給湯設備に被害が発生した、強羅・仙石原地区に温泉を供給する3社へのヒアリングを行って把握したものだ。また、母数の265軒は、箱根温泉旅館ホテル協同組合に加盟している施設や箱根町観光協会に加盟している施設などを精査し、合算した数字だという。

このタイミングで情報を出した経緯について佐藤氏は、「交通インフラの復旧状況の取りまとめが一段落し、温泉に関する問い合わせが増えてきていたこと」に加え、「一部のメディアによる報道が、実態以上に被害が大きく見える印象を与えていたことから、正しい情報を出さなければならないと判断した」と話す。

具体的には、どのような報道がなされたのか。ある全国紙の地域面(神奈川県版)の記事を追いかけてみよう。

【10月20日付】箱根 温泉供給一部停止
箱根町で一部の旅館などへの温泉供給が台風19号で停止していることがわかった。温泉の供給会社の設備が土砂崩れで損傷し、少なくとも250カ所に供給できず、うち約70が旅館やホテルなど宿泊施設、残りは別荘などだ。(後略)
【10月22日付】温泉供給停止 新たに59カ所
箱根町の早雲山で温泉を造成している箱根登山鉄道の温泉供給設備が台風19号で損傷し、強羅、早雲山地区の59カ所の施設への供給が停止していることがわかった。大半は旅館などの宿泊施設で、すでに判明した2供給会社分も合わせると、少なくとも約310カ所で供給が停止している。(後略)
【10月23日付】鉄道復旧に時間■温泉供給止まる
(前略)大雨は「温泉」にも影響を及ぼした。宿泊施設などに湯を送る温泉供給会社3社の給湯管などが12日の土砂崩れで損壊。少なくとも130カ所の宿泊施設と、180カ所の別荘、リゾートマンションなどで供給が止まり(後略)
次ページ数字としては間違ってはいないのだろうが…
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