血液クレンジング騒動で見えた広告規制の限界 SNSの「医療ステマ投稿」は野放し状態

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インフルエンサーマーケティングが広まるなか、ステマを防ぐための仕組みは広まっている。企業が広告投稿を依頼し、謝礼などを提供する場合は「#PR」といった表記をし、両者の関係性を明示しなくてはならないことが、WOMマーケティング協議会のガイドラインで定められている。

他方、医療サービスの広告投稿は「著名人との関係性を強調する」比較優良広告と見なされ、それ自体が法に触れる。そのため、本人の興味で行ったプライベートの投稿であることが前提となり、#PRの表記が載る投稿は存在しない。

#PRの有無で判断できないからこそ、両者が「金銭のやりとりや謝礼はない」と主張しても、表面から判断することは不可能に近い、という大きな落とし穴がある。

都内の保健所の担当者によると「通報があった場合に個別に聞き取りをすることはありうるが、どういうスタンスで投稿しているかまでは調べる権限がない」と話し、SNS上の投稿まではターゲットにしていないという。

かといって規制を強化することは、言論の自由を侵すことにもなりかねないジレンマもある。前述の担当者は「制度が立ち上がってまだ2年だが、マーケティング手法に、法令が追いついていないのが現状だ」と認める。

情報にふりまわされるインフルエンサー

インフルエンサーもステマとの誤解を避けるため、発信には細心の注意を払うが、あふれる情報にふりまわされているのも実情だ。

はあちゅう氏は、血液クレンジングに関する投稿はステマではないとしたうえで、「インフルエンサーには、いいと思ったことを発信する役割があるが、大きな責任も伴う。自分の興味から行った投稿であればなおさら、ひとりだけでなく周りにも相談して、その真偽を判断するべきだと、今回の件で改めて学んだ」と、炎上に対して反省を述べた。

美容医療クーポンサイト「キレナビ」編集長時代のはあちゅう氏と、赤坂AAクリニックの森吉臣院長。 金銭や謝礼の提供はなかったという(写真:本人ブログより、現在削除済み)

ただ、「専門家にもいろんな意見の人がいて、血液クレンジングをニセ医療だと断定する根拠も持っていない」と吐露する。

近年は「インスタ映え」の名目のもと、パフォーマンス性の高いものや、見栄えのするエステや治療などが大量にSNSにアップされている。それらの中には、危険な治療や、効果を誇大に強調するなど、医療広告上違法とみられるものも紛れている。

それらを取り締まることができない以上は、最終判断は消費者側に委ねられる。前述の名取氏は「基本的に保険適用の治療以外は、効果が公に検証されていないと考えていい。エセ医療で、本来よくなるべき症状が悪化することもあり、気をつけてほしい」と注意喚起する。

厚生労働省は、自治体による適切な指導を浸透させるため、今年から「医療広告協議会」を立ち上げた。現場の担当者や業界関係者を集めて、課題の論点整理や意見交換を行っていくという。

制度の甘さにつけこむ悪徳な医療機関を野放しにすれば、最悪の場合、国民の健康や命にかかわる問題も引き起こしかねない。取り締まり体制の整備は急務だ。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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