アップルの新しいヘッドフォンが革命的なワケ AirPods Pro「ノイズキャンセリング」の実力

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AirPods Proには、耳の中の音を拾うためのマイクが用意されている。しかもこのマイクは、ノイズキャンセリングだけでなく、AirPods Pro自体の音質を高めるために役立てられているという。

ノイズキャンセリングのためには、外部の音を拾う外側のマイクを用い、ノイズを打ち消す音をヘッドフォンのドライバーから鳴らす。これに加えて、内側のマイクで耳の中に入ってきた残留ノイズも検出し、これも打ち消す仕組みを備えている。毎秒200回のフィードバック処理を行いながら、ノイズ除去の調整をする仕組みだ。

スピーカードライバーは「高偏位ドライバー」といわれる専用開発のドライバーで、これまでより開口部が広くなっている。20Hzの低音を鳴らすことができ、これまでのAirPodsより低・中音域が豊かになった。この製品の本来の音質は、ノイズを打ち消すサウンドを再生しない「ノイズキャンセリングオフ」で楽しむことができる。

そのドライバーから耳に向けられて再生された音は、人によって異なる音を聞いている可能性があるという。人によって耳の形が異なり、再生した音と鼓膜に届く音が異なるからだ。内側のマイクでその音を拾い、耳の形に合わせた音質の調整を施す。これがアダプティブイコライゼーションだ。

秘密は「H1チップ」にある

アクティブノイズキャンセリング、外部音取り込み、アダプティブイコライゼーション――。耳に装着してなおつけていないような感覚を覚える5グラムあまりのヘッドフォンに、非常に高度なオーディオ処理の機能が詰まっており、4.5~5時間再生を行えるほどのバッテリー寿命を実現している点は、驚異的と言える。

その秘密は、すでに第2世代AirPodsやBeats製品に搭載されてきたヘッドフォンチップ「H1」にある。

今回H1を核としたSiP(システム・イン・パッケージ)が左右双方に搭載されたAirPods Pro。10個のオーディオコアを搭載していることから、入ってくる音を打ち消す音を再生するノイズキャンセリングや、外部音取り込みの低遅延を実現している。

アップルはすでにApple Arcadeでゲームサブスクリプションを、そして11月からはApple TV+で映像サブスクリプションを開始する。どちらも、音の遅延は体験に大きく影響するため、低遅延であることは非常に大きな意味を持つ。

オーディオは、記録された音をいかに忠実に再生するか、というアナログの世界だった。しかしアップルは、これまでとは異なる方法、すなわち人間の耳とオーディオドライバーの研究に加えて、自社製チップとそこで動かすソフトウェアやアルゴリズムによって、いい音を作り出す方向へ舵を切り、AirPods Proは予想以上に快適で満足度の高い体験を作り出した。

当初アナログから始まり、デジタルで再定義されたカテゴリとして、カメラがある。グーグル、アップルともに、ソフトウェア、機械学習処理によって光を再構築して写真を作り上げる新しい手法に取り組んでいる。今後オーディオも、高度なプロセッサーとソフトウェアで、さらなる高音質化を目指す可能性を、AirPods Proから聞くことができた。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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