「令和おじさん」菅官房長官に吹き始めた逆風 経産相辞任、進次郎失速などで広がる批判
初入閣組では無派閥で菅氏に近い菅原、河井両氏がそれぞれ経済産業相と法相という重要ポストに抜擢された。麻生派所属ながら菅氏が後見人とされる河野太郎氏の外相から防衛相への横滑りなども含め、自民党内では「今回の人事は菅氏の独り勝ち」(閣僚経験者)とみる向きが多い。こうした菅氏の動きに、永田町では「安倍後の政局運営の主導権獲得を狙っている」との観測も広がった。
そうした中で起こったのが菅原氏の経産相辞任だった。菅原氏はもともと、地元(衆院東京9区)での選挙違反ともみられかねない活動や、秘書へのパワハラ問題などが政界で噂になっていた。
地元有力支援者の葬儀で菅原氏の公設秘書が香典を手渡した場面が報道され、菅原氏は「国会審議停滞の責任をとる」とのお定まりの理由で10月25日に辞任した。辞任への経過をみれば「事態を重く見た安倍首相が更迭した」(自民幹部)とみられている。
横浜カジノ誘致のゆくえがカギを握る
菅原氏の初入閣は、「仕事をした人は評価すべきだ」との菅氏の強い推薦があったとされる。国会開幕直前に発覚した関西電力の原発マネー疑惑について、菅原氏は「言語道断」などと厳しく批判していただけに、政治的にも「完全なブーメランとなった」(閣僚経験者)。
菅原氏の辞表を受理した安倍首相は「任命責任は私にある」と陳謝したが、与党内では「最大の責任は、内閣に押し込んだ菅氏にある」(岸田派若手)との声が少なくない。
菅原氏後任の梶山弘志元地方創世相は菅氏と親しく、「後任も首相が菅氏に配慮して決めた」(官邸筋)とされるが、自民党内では「ここにきて首相と菅氏の距離はかなり広がった」(自民長老)との見方も出始めている。
2021年9月に予定される次期自民党総裁選候補には、石破茂元幹事長や岸田氏のほか、菅、河野、小泉の3氏と野田聖子元総務会長、茂木敏充外相、加藤勝信厚生労働相の8人の名前が挙がる。これまでの総裁選と比べても「本命不在の大混戦」(自民幹部)とみられ、菅氏は「政治的実績や実力は断然トップ」(自民長老)とされる。
「本人が望めば、展開次第ではポスト安倍の本命になる」(同)との見方があるゆえに、菅氏を支持しない勢力による菅批判も強まっている。
政界関係者が注目するのは、統合型リゾート(IR)法による横浜誘致問題だ。林文子横浜市長が8月に誘致方針を唐突に表明したが、地元では「菅氏の後押しで市長が決断した」との見方がもっぱらだ。ただ、菅氏とも親しく、誘致実現のキーパーソンとみられていた地元財界有力者の藤木幸夫・藤木企業会長が、それまでの態度を一変させ、「横浜の港にはカジノはいらない。命がけで横浜を守る」と猛反対している。
世論調査などでも横浜市民の多くが「カジノ反対」と答えており、「市長と菅氏のごり押しは、横浜市民が許さない」(藤木氏周辺)との声も出ている。このため永田町でも「地元へのカジノ誘致問題での対立も、菅氏への逆風になる」(自民幹部)とみる向きが多い。
こうした状況に、党内では「菅氏が影響力を誇示するタイミングが早すぎた」(細田派幹部)との指摘が出る。たしかに、「政権の裏方に徹していれば、本命不在で小粒ぞろいのポスト安倍レースでの政権獲りも狙えたが、党内の警戒心を呼び起こしたことで、菅待望論が失速し始めた」(自民若手)のが実態とみえる。
「出る杭は打たれる」のが政界の常でもあるが、権力者となって初めて逆風にさらされる菅氏が今後どう行動するかが、「ポスト安倍レースの展開を左右する」(自民長老)ことは間違いなさそうだ。
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