ジョンソン首相のブレグジット合意は通るのか

メイ首相協定案との違いと議会採決の行方

英国のジョンソン首相(左)はユンケル欧州委員長と新協定案で合意するも、北アイルランドをEUに取り残した形だ(写真:REUTERS/Yves Herman)

10月17日、英国のジョンソン首相はEU(欧州連合)と、メイ前政権が合意した離脱協定案(以下、新離脱協定案)を修正することで合意した。EUにしてみれば、1年で2度目の合意だ。ジョンソン英首相、ユンケル欧州委員長、共にツイッターで合意に至ったことを表明している。

本件は経緯が複雑怪奇であり、ほとんどの読者はこれまでの経緯を把握できていないか、把握していたけれど忘れてしまったのではないかと思われる。そこで英国下院議会での採決を前にまず、新離脱協定案で何が変わったのか、議会承認の勝算、今後の展開の3点について大筋を整理しておきたい。

アイルランド国境管理はどうなったか

新離脱協定案の最大の特徴はアイルランド国境をめぐるバックストップ案の削除である。メイ政権が合意した旧離脱協定案の付属議定書にはアイルランド国境管理について通称「バックストップ」と呼ばれる案が盛り込まれていた。アイルランド国境問題こそが国民投票から足元に至るまでの「失われた3年」の元凶であった。

そもそもアイルランドはEUに残留するが、北アイルランドは英国の一部であり、英国と共にEUを離脱する。しかし、アイルランドと北アイルランドとの間には過去の紛争の経緯から物理的な国境を設けないという規則(ベルファスト合意)がある。

バックストップ案とは「2020年末の移行期間終了時、英国とEUの新たな貿易協定が締結されず、移行期間の延長もなかった場合、アイルランドと北アイルランドの国境を開けておくために発動される安全策」だ。英国がEUを離脱しても、仮に2020年末以降も英国とEUが通商協定で合意できない状況が続けば、同案によって、英国全土がEUの関税同盟に残留することとされていた。

関税同盟に残るので英国は当然、EU規制を受けることになる。また、その際、北アイルランドは関税同盟だけではなくEUの単一市場にも残ることになる。これは「関税同盟だけでは物理的国境の回避にならず、北アイルランドを単一市場に組み込み、一定の物品規則を継続することで初めて回避できる」というEUの主張が反映された結果でもあった。

問題はバックストップの終了期限が定められていないという点にあった。仮に、英国とEUがいつまでも新しい通商関係で合意に至らず、バックストップを運用する状況が続けば、英国も実質的には残留状態が続き「名ばかり離脱(Brexit in name only)」の状況になることが懸念されていた。

ジョンソン首相に象徴されるような強硬離脱派からすれば「なし崩し的に残留させられる」との不安から、とうてい飲めない案であった。もちろん、EUは「英国をなし崩し的に半永久的に残したい」と思っているはずもなく、「早く出て行って欲しい」のが実情に近いが、いいとこどりは許さないという決意の表れであった。

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