ジョンソン首相のブレグジット合意は通るのか メイ首相協定案との違いと議会採決の行方

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新離脱協定案はこのバックストップ案を削除し、2020年末までの移行期間が終了すれば、EUの関税同盟から北アイルランドを含めた英国全土が離脱することを「名目上は」うたっている。しかし、「名目上は」そうでも「実態上は」そうではない。

旧離脱協定案は「英国と北アイルランドに差異を認めるべきではない。だが、解決策はない。だから見つかるまではバックストップを作ろう」という内容だった。これに対し新離脱協定案は「英国と北アイルランドは一体であり差異はない。バックストップは必要ない。しかし、アイルランド国境付近での税関業務を省略するために北アイルランドだけは関税手続きをEU基準に合わせる」という内容である。

何のことはない、バックストップを削除する一方で、最初から英国と北アイルランドの差異を認めて、北アイルランドはEU規制に従うとしただけだ。だからこそ、あれだけ修正に否定的だったEUがあっさり受け入れたという面もあるだろう。

もっとも第三国から北アイルランドを経由してEUへ向かう貿易品については、英国がEUに代わって関税徴収をすることになっている。こうした部分的な徴税権の移行をEUは認めていなかったが、今回はこの点は譲歩した。だから、ジョンソン政権が勝ち取ったものが皆無だったわけではない。しかし、EUとして反対する理由が小さい修正案だというのが筆者の印象である。

英議会で承認される可能性は低い

そんなわけで、10月19日の英国議会採決で承認に至る可能性は低い。メイ前政権において、EUとの離脱協定に合意する方針を発表したのは2018年11月14日、つまり今から約1年前だ。この時も英国とEUの間の合意は非常に大きな耳目を集めた。しかし、その後の展開は周知の通りである。

1年前にメイ前首相は「われわれの前にある選択は明白だ。この合意か、あるいは合意なしで離脱するか、離脱しないかだ」という言葉と共にEUとの交渉を打ち切った。結局、現時点では「合意なしの離脱」となる可能性が最も高い状況は何ら変わっていない。今回の報を受けた金融市場のリスクオンムードがほんの一瞬しか続かなかったことは、「今回も同じ」というあきらめを何よりもよく映し出している。

まず、現政権が閣外協力を仰いでいる北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)は当然のことに新離脱協定案に反対の意思を示している。DUPはあくまでも北アイルランドと英国の一体感を重視する政党である。上述したように今回の案では最初から英国と北アイルランドの差異を受け入れているので賛成できるはずがない。

この点、巨額の財政支援と引き換えにDUPが賛成すると期待する声もあるが、それができるなら最初からそうしていたのではないか。それゆえ、可能性が高いシナリオとはみなせない。

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