法的に見るドトール「休日119日固定」のマズさ 不利益変更は1人ひとりの同意が必要だが…

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広報担当者の方の回答と、冒頭で引用した朝日新聞社の取材に対する従業員の声を勘案すると、断定することまではできませんが、ドトールコーヒーが就業規則を変更して年間休日数を119日に固定することに対し、従業員1人ひとりからの同意までは得てはいかなったという可能性が高そうです。

ここから先は筆者の憶測ですが、同意を得なかった理由としては、2つの可能性が考えられます。

第1の可能性は、単純に労働契約法の存在を知らなかったことです。しかし、同社は、持株会社が「ドトール・日レスホールディングス」として東証1部に上場している大企業ですから、社内の関係者が誰も労働契約法を知らなかったということは現実的に考えにくいです。

労働契約法9条の「ただし書き」

第2の可能性は、労働契約法第9条の「ただし書き」にのっとり対応した可能性です。

前掲した労働契約法第9条の条文の末尾には「ただし、次条の場合は、この限りでない。」というただし書きがついています。「次条の場合」とありましたので、ここで、労働契約法第9条に続く、第10条の条文を紹介しておきます。

【労働契約法第10条】
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下略)

要約すると、「就業規則の不利益変更が、社会通念に照らして合理性がある場合は、労働者の個別同意を得ていなかったとしても、変更は合法になる」ということです。

ただし、何が「合理性がある場合」なのかということについては、明確な基準は無く、個別具体的な判断となります。

「何の前触れもなく給与体系が極端な成果主義になる」「退職金制度を突然廃止する」といった大幅な不利益変更であれば、労働者の個別同意を得ないで行った不利益変更は、「合理性がない」、すなわち、違法ということになるでしょう。

しかし、今回同社が行った「年間休日を数日減らす」というような小幅な変更の場合は、「人手不足のためやむをえなかった」など、会社が制度を変更した事情によっては、法的に「合理性がある」と判断される可能性も充分に考えられます。

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