フェラーリが、客にあえて1台少なく売る理由 ゲーム理論が教えてくれる付加価値の本質

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もともと創業者のエンツォは、日頃から「欲しがる客の数よりも1台少なく作れ」と語っていたという。

エンツォは正確な既存顧客リストを基に、何台の市販車が売れるかを見極め、生産台数をそれより1台少なく設定したうえで、販売価格を決めていたのである。

この方法はメリットが大きかった。不特定多数に興味を持ってもらう必要がないので、宣伝販促は不要になるからだ。私たちが普段見かけるフェラーリの広告は、フェラーリではなく、販売代理店が自腹を払って出しているものだ。

顧客が「買わせてもらえますか?」とお願いする戦略

コモディティ化しかけたF40から学んだフェラーリは、創業者エンツォの考えに舞い戻って、F50の生産台数を絞ったのである。

限定販売モデル「スペチアーレ」は億単位の買い物にもかかわらず、わざわざ顧客が代理店に電話して「買わせてもらえますか?」とお願いするという。フェラーリは売り込みをしないのだ。これも、フェラーリがまず大事な顧客を選び、そして特別感を持ってもらうというように、戦略的に考えた結果だ。

「あえて顧客を選んでいる」から、フェラーリは高く売れるのである。

フェラーリは中古の下取りでも高く売れる。2014年、1962年型フェラーリ250GTOは39億円で落札された。

フェラーリが中古でも高く売れるのには、仕組みがある。社内の中古専門部門が「価値あるクラシックカー認定制度」を運営しているためだ。

フェラーリの中古車の審査を依頼すると、専任スタッフが部品1つひとつをキチンとチェックし、基準を満たしていれば「本物」と認定する。改造されたり状態が悪かったりすると、オリジナル状態にレストアしてくれる。だからフェラーリの中古は値崩れしない。結果、フェラーリのブランド価値は高まる。

こうして高まったフェラーリのブランドは、ビジネスにも大きく貢献している。2018年の総売り上げは34.2億ユーロ(4170億円)。うちブランド関連売上は5.06億ユーロ(617億円)。これはフェラーリの「跳ね馬」マークのブランド使用料で、総売上の15%を占める。コストがかからないので、まるまる利益になる。

さらにフェラーリは景気に左右されない。図は2004年から2018年のスーパーカー全体とフェラーリの販売台数推移だ。2008年から2009年のリーマンショックの時、スーパーカー市場の販売台数は下がったが、フェラーリへの影響は少なかった。これもフェラーリが顧客を選んだ結果である。

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