フェラーリが、客にあえて1台少なく売る理由 ゲーム理論が教えてくれる付加価値の本質

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フェラーリが欲しがる客よりも1台少なく作る理由は、ゲーム理論で考えるとわかる。

こんなゲームを考えてみてほしい。

あなたは1万円で仕入れた超人気の高級ワインを11本持っている。このワインは超品薄でまず入手できない。あなたはこの高級ワインを知り合い限定で転売できる権利を持っている。ただし第三者には転売できないし、買い手同士は情報交換できないものとする。

【ゲーム1】「この高級ワイン、どうしても欲しい」というワインマニアの知り合いが10人いる場合

あなたが知り合いに「この超高級ワイン、2万円で買わない?」と提案しても、相手から「1万円で仕入れたんでしょ。高すぎるよ。1万1000円なら買うよ」と言われると、値切り交渉に応じざるをえない。仮にほかの買い手9名全員が買ったとしても、売り手のあなたの手元にはワインが2本余る。相手と交渉が成立しない限り、このワインをお金に換えられないからだ。

次にゲーム1を少しだけ変えてみる。

【ゲーム2】あなたは超高級ワイン11本のうち2本を飲み干し、手元には9本しか残っていない

途端にゲームは一変する。なんとあなたのほうが圧倒的に有利になるのだ。

あなたが知り合いに「超高級ワインがあるんだけど、2万円で買わない?」と提案すると、相手は受け入れる以外に選択肢はない。ほかの買い手9人と交渉が成立してしまうと、残ったワインはゼロ。あなたの知り合いは、超高級ワインを入手する機会を失ってしまう。だからあなたの立場は圧倒的に強くなる。相手はあなたの言い値で買うしかない弱い立場に変わる。

あえて「欲しがる客よりも1台少ない」状況を作っているフェラーリは、ゲーム2と同じ状況を作っているのである。

心理学でいう「心理的リアクタンス」を喚起している

フェラーリが、欲しがる客よりも1台少なく作る理由は、心理学で考えても説明できる。

人間は「希少性があるものは、いいものだ」と思ってしまう。人は本能的に自由を求めるからだ。入手する機会が減ると「入手する」という自由を失ってしまう。人はこれを嫌う。要は「人は、自分で決められないのが嫌」なのだ。だから「欲しいものに希少性がある」と知ると、無性に欲しくなる。これを「心理的リアクタンス」という。

これと同じ考え方で高値を維持している事例は多い。

私たちは「ダイヤモンドが高いのは、希少性があるからだ」と信じている。しかし、現実にはダイヤモンドの採掘量は増えている。ダイヤモンド流通を独占するデビアスが流通量を意図的に減らしているため、ダイヤモンドの希少性は維持されている。

『売ってはいけない』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

フェラーリやデビアスは、人為的に希少性が高い価値を生み出しているのだ。必要以上の数を売ることは、自ら希少性を手放しているのと同じだと言ってもよい。希少性を生み出せば機会損失が生じるが、価値は高まる。

ただし条件が1つある。「顧客が何としても手に入れたい商品」であることだ。顧客が「なければほかの商品でもいい」と思っている場合は、1個少なく売ったとしても、顧客は別商品を買うだけのことだ。

だから、まず「顧客がどうしても欲しい」という商品を作ること。1個少なく売るべきかどうかを考えるのは、その次である。

(参考文献:『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』越湖信一より一部引用)

【2019年11月5日17時追記】参考文献を追加しました

永井 孝尚 マーケティング戦略コンサルタント

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ながい たかひさ / Takahisa Nagai

慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMの戦略マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを経て、2013年退社。同年、多摩大学大学院客員教授を担当。マーケティング戦略思考を日本に根づかせるため、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立。多くの企業・団体へ戦略策定支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供。2020年からはオンライン「永井経営塾」主宰。著書に60万部超『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、15万部超『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)など。著書累計は100万部超。

オフィシャルサイト

X(旧Twitter) @takahisanagai

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