サウジへの攻撃で「劇変」した原油市場の常識

最悪なら今後スタグフレーションのおそれも

もし市場が上述のようなリスクプレミアムや需給逼迫に対する懸念を本格的に織り込むようになれば、原油相場も改めて騰勢を強めてくる可能性もある。これから年末にかけては、冬場の暖房需要の増加をにらんで季節的にも相場が上昇しやすい時期でもある。

エネルギー価格が上昇してくれば、次に浮上してくるのはインフレに対する懸念だ。とくに9月17~18日に開かれたFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で2会合連続での利下げが決定されたほか、ECB(欧州中央銀行)も理事会でマイナス金利を深掘り、量的緩和プログラムを再開するなど、主要中銀が金融緩和姿勢を強めていることには十分な注意が必要だ。

現時点ではむしろ景気減速やデフレに対する懸念のほうが強く、緩和策を積極的に進めることは十分理にかなっているのだが、一方では行き過ぎた緩和策がインフレを引き起こすとの懸念する声があることも忘れるべきではない。

原油高が必ずインフレにつながるというわけではないが、そうした懸念が高まるだけでも、市場が過剰に反応するおそれは高いのではないか。その中でもっとも警戒すべきは、バブルの様相を呈している債券市場が急落、長期金利が一気に上昇するというシナリオだろう。

FRBが判断誤れば、スタグフレーションも

また原油が急騰した9月16日の週には、アメリカで銀行や企業が資金調達する際に支払う翌日物レポ金利が一時10%にまで急騰するなど、短期金利市場の流動性に対する不安が高まったことも気になるところだ。

金利の上昇は法人税の支払いや米国債入札に伴う資金需要が重なったことによる、一時的なものと見られており、NY連銀が約10年ぶりの資金供給オペを行ったことでひとまずは沈静化したが、市場では根本的な要因は、FRB(連邦準備制度理事会)が昨年バランスシートの縮小に着手したことにあり、今後も短期金利が上昇しやすい状況は続くとの見方が強まっている。

NY連銀は10月10日まで資金供給オペを続ける方針を示しているが、金利上昇を抑制するためにはFRBが再びバランスシートを拡大する必要があるとの意見も強く、結局FRBは緩和的な政策を取らざるをえなくなるのかもしれない。

世界的な景気の先行きに対する不透明感の高まりから、予防的な措置として2会合連続の利下げに踏み切ったFRBのジェローム・パウエル議長だが、今後はエネルギー価格の上昇に伴うインフレの可能性や、短期金利市場における流動性の確保という、新たな問題を抱えることになり、金融政策の舵取りもさらに難しくなるだろう。

インフレを意識しすぎて利下げを休止すれば、株式市場の大幅な調整を招くおそれがある一方、金融市場の安定を優先して緩和的な政策を取れば、原油市場に余剰資金が流入、インフレを助長することも十分に考えられる。

もしFRBが判断を誤れば景気後退と同時にインフレが加速する、スタグフレーションという最悪の結果をもたらす可能性もゼロではない。市場がそうしたシナリオを織り込むようになれば、株安、債券安、ドル安の「トリプル安」に陥る局面が目立つようになってくるだろう。そうした動きが目立つようになってくれば、警戒レベルを1段も2段も引き上げる必要があるのではないか。

マーケットの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • コロナショックの大波紋
  • おとなたちには、わからない
  • 最強組織のつくり方
  • 岐路に立つ日本の財政
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
大手不動産がこぞって参戦<br>「シェアオフィス」ブームの内実

テレワークや働き方改革の浸透で存在感を高めているのが「シェアオフィス」です。大手から中小まで多数の参入が相次いでいますが、目的はさまざま。通常のオフィス賃貸と比べた収益性も事業者で濃淡があり、工夫が必要です。