サウジへの攻撃で「劇変」した原油市場の常識 最悪なら今後スタグフレーションのおそれも

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攻撃当時クライス油田では日量120万バレルの生産が行われ、アブカイクの施設では日量450万バレルが処理されていた。この2施設に対して少なくとも25機のドローンによって攻撃が行われ、施設の稼働が完全に停止してしまったという。

これまでエネルギー市場関係者の間では、サウジの石油施設に対する警備は極めて厳重で「攻撃によって生産が停止することなどありえない」というのが常識だった。それが「たかが25機のドローンによる攻撃」と言えば語弊があるかもしれないが、一時的にせよ日量500万バレルを超える供給があっさりと停止してしまったのだ。その心理的な影響は大きく、決して無視できるものではないと考えておいたほうがいい。

今回も生産の多くはすぐに回復したのだから、施設の被害は軽微なものだったのだろう。その点では逆に言えば「ドローンによる攻撃では壊滅的な打撃を与えることはできないと証明された」ともいえるかもしれない。

だが問題は、今回の攻撃は再現性があるということである。今回の攻撃がサウジやアメリカが主張しているようにイランによるものならば、最終的にはイランとの戦争になり、イランが敗北すれば施設への攻撃も行われなくなるだろう。一方ではイエメンのフーシ派武装勢力が今回の攻撃を行ったと宣言しており「今後もサウジの施設は攻撃対象となる」と警告している。

もし攻撃が武装勢力によるゲリラ的なものであるならば、今後も小規模ながらも攻撃が行われる可能性は残る。今回の事態を受けてサウジも警備を強化しているだろうし、今回のような大規模な生産停止は二度と起こらないのかもしれない。だが、攻撃があったというだけで市場が過剰に反応することは目に見えている。

それまでの原油市場は、世界的な景気減速に伴う需要の伸び悩みに対する懸念が重石となる中、軟調な展開が続いていたし、こうした懸念は今後も残ることになるが、ドローン攻撃による生産停止のリスクが残る限りは、積極的に売りを仕掛けることはできなくなる。

またアメリカとイランとの緊張の高まりにも、十分な注意が必要だ。ドナルド・トランプ大統領はそれまでイランに対話を呼びかけるなど、どちらかといえば柔軟路線を進めようとしていたが、今回の事態を受けて態度を一変、経済制裁の強化を指示するなど、圧力を強めている。

今のところ、軍事攻撃の可能性には否定的だが、その一方で不測の事態に備える準備を着々と進めているのが実際のところだ。イラン側の出方によっては軍事的衝突が起きる可能性は高く、供給不安が再び高まる可能性もある。

インフレ懸念の台頭も警戒?

こうした情勢不安のみならず、今回の生産停止の影響で石油需給が今後引き締まる可能性にも注意が必要だ。サウジは今のところ備蓄を取り崩すことや、国内製油所の稼働率を落とし、その分の原油を輸出に回すことで出荷量を維持しているが、備蓄の取り崩しは長期にわたってできるものではないし、製油所稼働の引き下げによって石油製品の生産が減少した分は、輸入によって賄う必要に迫られている。

実際、サウジはすでに近隣諸国から、航空機燃料などの買い付けを行っているという。今回の石油生産停止の影響は、この先世界需給の逼迫という形でジワジワと表れてくるようになるのではないか。

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