株価を予測する上で米中協議よりも重要なこと 中国経済は市場の想定よりも意外に順調?

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実際に、経済成長率に配慮する経済政策への転換は、金融政策の現状維持が続き、緊縮財政を強めている日本を除く多くの国で2019年に入り散見されている。まずは、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年早々に利上げ路線を事実上撤回し、その後利下げに転じた。欧州中央銀行(ECB)も6月から緩和姿勢を明確に示し、9月に金融緩和に転じた。筆者は、これらの金融緩和政策の強化を前向きに評価しているが、これらだけでは経済を押し上げるには不十分で、財政政策発動が必要と考えている。

ドイツの政策転換に期待が持てない

財政政策に関しては、アメリカでは2021年までの歳出上限が引き上げで合意に至り、今後の政治情勢次第だがさらなる歳出拡大が続く土壌が整った。

また欧州では4月にフランスが減税政策を発表し、また欧州連合(EU)からの離脱期限が迫るイギリスではボリス・ジョンソン首相が減税政策など大規模な財政政策を打ち出している。そして、8月後半には、欧州の中で拡張的な財政政策に特に慎重なドイツにおいて、オーラフ・ショルツ財務相が国内総生産(GDP)の1.5%に相当する500億ユーロ規模の財政発動の可能性に言及した。

ただ、最近のショルツ財務相の発言を踏まえると、実際に発動される財政政策の規模は、数十億ユーロ規模程度しか想定されていないとみられる。このため、GDP成長率を押し上げるには至らないだろう。ドイツの政治家などの多くは、財政政策に消極的な姿勢は変わっていないとみられるため、現時点では筆者はドイツの政策転換に期待は抱いていない。

もしドイツで大規模な財政政策が発動されれば、経済停滞が顕著である欧州諸国の成長率が高まるだろう。9月にECBが再びアグレッシブな金融緩和に転じた相乗効果で、歳出拡大や減税などの景気押し上げ策がドイツで実現すれば、金融市場の景色を変えうる。現時点では強い期待は難しいが、今後の政治情勢の変化は注目される。

ドイツと同様に、金融市場の情勢を変える政策対応が想定されるのは中国だ。同国では2018年後半から財政・金融緩和政策が打ち出されたが効果は限定的で、アメリカ政府による関税引き上げの影響もあり2019年は製造業を中心に景気減速が続いている。中国経済は2015年半ばから減速した後、政策対応によって2016年半ばから持ち直し、それが当時の世界経済の再加速をもたらした。しかし、2019年は、2016年同様のシナリオは難しいとの認識が市場で広がっている。

中国経済は市場の認識とは違い、意外に順調?

一方で、中国の政策発動を決める同国の政治情勢に関しては、筆者が見えていない部分も多いため、中国の政策対応余地については柔軟にみる必要があると考えている。筆者は9月後半に北京に出張し、現地の専門家などと議論をする機会があった。この中で、2020年にかけて中国経済の減速が続くリスクが高まっているとの金融市場の見方に対しては、懐疑的な意見が聞かれた。中国では、インフラ投資など財政政策の対応余地が大きく、政府が掲げる経済成長が実現できるというのが一つの理由である。

また、現地のビジネスマンの話を聞く機会もあったが、経済情勢はここ数年ずっと好調を維持しているとのことだ。最近は北京などの大都市で大気汚染の問題が解消されたこともあり、現地では年々経済的な豊かさが高まっている、と今回の出張において感じた。もちろん、筆者が見聞きしたのは極めて限定的な表面に過ぎないかもしれない。ただ「米中貿易戦争によって中国経済が苦境に陥っている」、という金融市場で強まる認識とは違う景色が、中国国内には存在しているとみられる。

現時点で公になっている、中国政府の政策対応のメニューを踏まえると、中国経済に強い期待を抱くことは難しい。ただ、ドイツと同様に政治情勢の変化によって起こりうる政策判断が、株式などリスク資産の追い風になり得るとみている。なお、10月からの消費増税で緊縮財政を強化した日本では、それを覆すかなり大規模の財政政策発動が必要になる。ただ、筆者はそれには全く期待できないと考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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