自動車暴走で見落とされる「有効視野」の大問題 認知機能だけでなく、視野にも注目すべきだ

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さらに認知機能というのは、運転機能に関わるものだけではありません。今日が何月何日かわからなくても、物の名前を忘れてしまっても事故とは必ずしも関係はありません。認知機能というのは、運転とは関係ない要素もかなり大きいのです。しかも、認知機能が衰えていない高齢者でも事故が多いのです。

認知機能を厳しく見ることは、感覚的には高齢者対策として効果的に思えます。しかし、大きく認知機能が衰えた一部の高齢者の事故を減らすことはできても、高齢者の事故はそこまで多くは減らすことができません。

有効視野が狭まると、事故率が264%も増えてしまう

確かに認知機能が低下すると、障害事故が25%ほど増えることがわかっています。ただし、「有効視野」が悪化すると、事故率が264%も増えてしまうこともわかっています。それだけ「発見の遅れ」が事故につながっているということです。有効視野は認知機能よりも事故と相関するのです。

では、「有効視野」とは何でしょうか? 一般に言われる視野は、200度の広さとなっています。詳細なところまで把握できる中心視は、角度でいうと「2度程度」しかありません。この視野と中心視野の間の、20度の範囲で、物を何となく判別できる範囲の視野を「有効視野」と呼びます。

この有効視野は「高齢者」になると減少し、40%以上減少すると事故率が2倍以上になることがわかっています。有効視野が40%以上減少するのは、高齢者全体の3分の1を占めています。また、飲酒していたり、運転に慣れていなかったりする場合でも、狭くなります。

高齢者になると反応が遅くなるのが問題と思われがちです。反応が衰えるのは事実なのですが、視野の中心部に提示されたものに対する反応は大きく衰えないこともわかっています(映像情報メディア学会誌より)。

追突事故は、高齢者も若年者と発生率が変わらないこともわかっています(自動車技術会論文集より)。このことからも、視野で捉えられないことのほうが、自動車事故に関連すると思われるのです。真っすぐボーッと見ている状態よりも、交差点の込み入った状況で人を見落としてひいてしまうことが、若者よりも起きやすいのです。

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