ECB分裂騒ぎで、ラガルド新総裁は慎重な船出に ドラギ流突破にドイツ出身理事が抗議の辞任

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過去の類例を踏まえる限り、今後の政策運営への影響がさほど大きいとは思わないが、今回は過去2回ほど軽いものではないように思える。おそらくラウテンシュレーガー理事はドラギ体制からラガルド体制に移行しても現状と同じような「なしくずし的な緩和路線」が選択されると将来を悲観したのだろう。

部外者から見てもAPP再開は強引な決定だったことは想像に難くない。いくら多数決が原則だからといって、会合前に報道されているだけでも25名のメンバーのうち3割近く(数えてみると7名は存在した)がAPP再開に反意を示していたのに、一足飛びに再開が決まるのは違和感があった。

ラガルド新体制では調和を重んじる運営に?(写真:REUTERS/Francois Lenoir)

ラガルド新体制では「多数決で突破」を自重へ

もちろん、今年11月以降に始まるラガルド新体制を気づかって「先に決めてあげた」というのが実情なのだろうが、周知の通り、その気づかいが「ECBはもはや材料出尽くし」との観測を引き起こし、むしろ会合後のユーロや域内金利を上昇させてしまった。

2011年にシュタルク理事やウェーバー総裁が辞任した際には、政策運営に大きな影響は見られなかったのは確かだが、これは欧州債務危機の最中でドイツだけが孤立していたからだろう。追随するものがなければ影響が小さいのは当然だ。

だが、現状はフランス、オランダ、オーストリア、エストニアなどのメンバーも反対に回っている。それでも緩和を望む南欧を中心とする「数の力」には劣るが、ドイツだけが孤立していた過去の分裂よりも慎重に接すべき事態になっていると見てよい。

こうした状況下、ラガルド新総裁はドラギ総裁がやっていたような「迅速性を重視し多数決で突破」というような政策運営はやりにくくなると予想される。市場の耳目を集めやすい派手な立ち回りは当面、控えられる公算が大きい。もとより調整能力に定評があるラガルド氏の気質を考慮すれば、なおのこと、機動性を犠牲にしてでも、まずは調和を重んじる運営になると予想する。

※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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