鉄道・バスの「いいとこ取り」、日立市BRTの実力 旧・日立電鉄の線路跡が専用道として再生

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次の目標は、いよいよ第Ⅲ期区間、つまり日立市中心部、JR日立駅方面への乗り入れだ。日立電鉄も、かつては鮎川から延伸して日立市中心部への乗り入れを構想していた。実現すれば、市中心部と南部とを結ぶ基幹交通が完成するが、それにはいくつか課題がある。

その1つが鮎川駅跡から先に線路用地がないため、どのようにバス専用道を確保するかということだ。鮎川駅から先、日立駅に至る国道245号は起伏の激しい片側一車線の道路で、専用道や専用レーンの確保には、土地の収容を含めた大規模な拡幅が必要になる。また、国道の整備は国の事業であり、ハードルが高い。

そして、もっと根本的なことが、鮎川を経由するルートでよいのかということだ。鮎川周辺は工業地帯であり、鮎川―日立駅間も常磐線と海岸に挟まれた起伏のある地形で住宅地や商業施設は少ない。

「さまざまなルートを検討しているが、学校や病院といった、多くの人が利用する施設にアクセスできるようなルートが望ましい」と語る佐藤氏によれば、鮎川を経由せず、常磐線の西側を通るルートも検討されているという。

地方の中規模都市にも広がるか

候補の1つとして挙げられたのが、今年10月8日まで開催の「いきいき茨城ゆめ国体」の会場となった、池の川運動公園を通る市道24号線ルートだ。

同公園には、池の川さくらアリーナのほか、野球場やテニスコート、陸上競技場などが集まり、国体閉幕後も大規模なイベント会場としての利用が見込まれている。市道24号線沿いには、茨城大学工学部キャンパスや県立多賀高校、日立製作所日立工場などもあり、定時運行性に優れたBRTの需要は高い。

いずれのルートも、バス専用道やバスレーンを設けるには道路の拡張や新設が不可欠だ。土地の買収も必要となるため、事業費はⅠ・Ⅱ期よりも高額になる。そのためには、住民からの高い支持が必要だ。順調なスタートを切ったとはいえ、現在運行されている区間は広大な日立市のごく一部の地域にすぎず、今後の取り組みと周知にかかっている。

BRTというシステムは、連接バスなどの大型車両を使い、バス側の信号を優先して制御するPTPS(公共車両優先システム)などと組み合わせるなど、本来は大都市に適した交通システムと言われる。東京では都心とお台場を結ぶ「東京BRT」が2022年度の本格運行を目指して準備が進んでいるほか、神戸や福岡などでも実証実験が行われている。

ひたちBRTは、そうしたBRTの可能性を地方の中規模都市に広げる可能性を秘めている。日立市民の生活にBRTが定着し、車に頼らなくても便利に暮らせる「コンパクトシティー」が実現すれば、高齢化と人口減少に悩む多くの都市にとって大きなヒントとなるだろう。

栗原 景 ジャーナリスト

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くりはら・かげり / Kageri Kurihara

1971年東京生まれ。出版社勤務を経て2001年独立。旅と鉄道、韓国をテーマに取材・執筆。著書に『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『国鉄時代の貨物列車を知ろう』(実業之日本社)等。

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