鉄道・バスの「いいとこ取り」、日立市BRTの実力 旧・日立電鉄の線路跡が専用道として再生
実際、専用道路の完成によって、ひたちBRTは格段に便利になった。とくに大きな恩恵を受けたのが、大沼や水木といった地域だ。この辺りはJRの駅から2km以上離れているうえに、道路容量が実際の交通量よりも著しく不足し慢性的に渋滞が発生する交通の難所だった。
大沼バス停から大甕駅までの所要時間は、一般道を経由していた先行開業の時点で16~19分だった。朝の通勤時間帯は道路混雑を見込んでいたが、それでも定時運行は難しく、利用者はかなり時間に余裕をもたなくてはならなかった。
一方、本格運行開始後の所要時間は終日11分。常磐線との立体交差が完成し、新設された大甕駅西口乗り場へ、一般道を経由せずに乗り入れられるようになったのが大きい。これにより、大沼・水木地区は、大甕・常陸多賀両駅へ10分前後で確実にアクセスできるようになった。
先行開業時は15~20分おきだった運転間隔も、定時運行性が上がり、円滑な車両運用が可能になったことなどからラッシュ時は10分間隔に短縮。朝7時台には、日立製作所大甕工場前へ直通する便が5分間隔で設定され、最も混雑する便には続行便も運行されている。
ラッシュ時の定時運行は通常のバスには難しく、5分間隔の運行や工場への乗り入れは日立電鉄時代には不可能だった。ひたちBRTは、バスと鉄道の「いいとこ取り」を実現したのである。
BRT沿線への移住を促しコンパクトシティーを実現へ
日立市が、ひたちBRTの整備を推進する目的は、交通渋滞への対策だけではない。長期的な狙いとして、高齢化社会を迎えた中で、自家用車に頼らなくても生活できる町を作ることが挙げられる。
1960~1970年代、日立市では西側の丘陵地帯が切り拓かれ、多数の住宅地が開発された。しかし、標高が80~220mあり、海岸沿いの市街地を結ぶ東西方向の交通が脆弱なため、住民は車に頼った生活を送っている。これが交通渋滞悪化の一因となっているうえ、今後高齢化によって自家用車に頼ることが難しい世帯が出てくることが懸念される。
そこで、BRTの沿線に新たな住宅環境を整備し、移り住んでもらうことで車に過度に頼らなくても生活できる環境を提供するというのが日立市の構想だ。BRT沿線で宅地開発を行うと開発業者に最大500万円の助成金が支給される制度も実施されており、大沼周辺には新しい住宅が増えている。
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