米中貿易戦争とアメリカの景気をどう読むか バンカメメリルのイーサン・ハリス氏に聞く

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――ニューヨーク連邦準備銀行前総裁のビル・ダドリー氏が、FRBはトランプ大統領の要求に応えるべきではないという主旨の寄稿をして話題になっています。

トランプ大統領が関税をかければ、経済や市場に悪影響が出る。そこでFRBが利下げすると景気が持ち直す。しかし、持ち直すと大統領がさらなる関税をかける。そういう悪循環に陥っているという指摘だ。その負のループの指摘自体は正しいが、「だからFRBが緩和をすべきではない」ということを彼は言うべきではなかったと思う。FRBの仕事は経済を安定化させることだ。

――投資家からは財政拡張策への期待感もあるようです。

トランプ大統領はもう一段の減税を視野に入れているようだ。しかし、下院は民主党が過半数を握る「ねじれ」の状況にある。民主党は選挙の前には経済にプラスになる政策は認めたがらない。トランプ大統領の再選につながりかねないからだ。減税に反対し、財政出動にも躊躇している。こうした政策を認めるのは選挙後ということになりそうだ。ただ、景気が明らかに悪くなれば財政出動もあるかと思う。

低金利が景気後退によるショックを小さくする

――現在世界的に債務が積み上がっています。中国では民間債務の規模が問題視されており、アメリカでも企業の債務は大きくなっています。景気後退となれば、金融市場でリスク回避、現金化の動きが起きて、流動性不足などの混乱に陥る可能性がありませんか。

債務が増えているという点では、過去の景気後退と比べて脆弱度は増している。だが、過去の景気後退と比べてマシな点もある。景気後退と低金利の組み合わせは、景気後退と高金利の組み合わせよりもショックが小さい。かつては中央銀行が金利を引き上げたことが、景気後退を引き起こした。弱い需要と高い金利で企業は打撃を受けた。しかし、低い金利の下ではショックは小さい。債務はそれ自体が大きいことよりも金利が高いときに問題となる。

――トランプ大統領は中国を為替操作国に認定しましたが、これまで対ユーロでも、対円でもドル高への不満を並べたてています。しかし、米中貿易摩擦によるリスクがむしろドルを押し上げていると思います。ドル売り介入を行う可能性はありますか。

米中貿易摩擦の影響で中国や新興国にお金が向かわない。そのため、ドルも円も高くなっている。米中貿易摩擦がエスカレートすればドルは高いままだ。ただ、前述のように、大統領選挙前に暫定的に停戦で合意すると思うので、来年は高いドルにも終止符が打たれると思う。ただし、トランプ大統領が再選されれば、米中貿易摩擦が再燃してドルも高くなる可能性がある。その場合、ドル売り介入の話が出てくるかもしれない。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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