カネも通信も丸裸、ロシア「監視社会化」の恐怖 「ハイテク捜査網」がデモを心理的に圧迫

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もちろん、ズベルバンク自体に犯罪者やデモ参加者を検挙する権限はない。しかし、ズベルバンクはAIで「疑わしい送金」を検知して、名義人の同意なく口座を閉鎖できる。

2018年の法改正によって、銀行は「詐欺の前歴のある人物が関与」「送金パターンがそれまでの履歴と大きく異なる(送金先や金額など)」などの基準で「疑わしき送金」を検知し、名義人に確認が取れない場合は口座を閉鎖できるようになった。

プーチン氏が本当に恐れているのは何か

表向きはATMを通じた詐欺やマネーロンダリング防止が目的の法改正だが、「疑わしき送金」の基準は極めてあいまいだ。この権限を乱用すれば、デモ主導者と疑われる市民の資金を凍結することもできてしまう。

ロシアのデモ弾圧と聞くと、警棒を持った治安部隊を連想する読者も多いだろう。しかしそれは弾圧の表舞台に過ぎない。実際には監視カメラ網と膨大な個人情報データベースをAIで解析するハイテク捜査網が水面下で稼働している。それはデモ参加者に対する心理的抑圧装置としても機能している。

ズベルバンクが監視の目を向けているのは、首都圏だけではない。ズベルバンクは今年7月、ロシア中部のスベルドロフスク州政府と監視カメラ網構築計画で合意した。同州の中心都市エカテリンブルクでは、5月に劇場広場での教会建設計画に反対した住民デモが注目を集めたばかりだ。

さらに、ズベルバンク利用者と取引する外国企業やズベルモバイルと契約したロシアの友人と通話する外国人も監視対象になるだろう。

それにしてもプーチン氏はなぜ、野党リーダーでも著名反体制指導者でもない一般市民をここまで広く監視するのか。そう問いかけてみれば、プーチン氏が本当に恐れているものの正体がみえる。昨年の年金の支給開始年齢引き上げで支持率は落ち、複数の地方知事選で与党候補が敗れた。

今プーチン氏が恐れるのは大陸間弾道ミサイルでも、ミサイル防衛網でもない。顔のない無数のデモ組織者たちによる、内部からの体制転覆なのである。

尾松 亮 作家・リサーチャー

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Ryo Omatsu

1978年生まれ。東京大学大学院人文社会研究科修士課程修了。2004~2007年、モスクワ大学文学部大学院に留学。ロシア経済情報誌『ロシア通信』『ダリニ・ボストーク』通信編集長を経て、ロシアCIS地域の社会経済調査・コンサルティングに従事。エネルギー問題を中心に、ロジスティクス、AI、環境問題など幅広い分野で調査経験を持つ。著書『チェルノブイリという経験』『廃炉とは何か』(ともに岩波書店)他。

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