ハーバードエリート集団が見た、新しい中国

よく語られる「中国像」を鵜呑みにしていいか?

広州で見学した衣料品メーカーは、日本や欧米の高級ブランドの委託先となっており、日本人にもなじみ深いブランドも手掛けている。この企業は品質向上を目指す中でバリューチェーンの垂直統合を進め、自社の綿花農場を抱えるだけなく、最近では、綿花種子の開発まで行っている。巨大な工場は高度に自動化され、イメージしていた「安い労働力を搾取する工場」とは程遠いものだった。

メイド・イン・チャイナの高級衣料が世界を席巻するか?

最近、この衣料品メーカーは、欧米の高級ブランドのさらに上をいく超高級な自社ブランドを手掛け始めた。シャツ1枚が数万円ととても強気な価格設定で、香港や上海といった大都市の富裕層をターゲットにしている。

メイド・イン・チャイナの高級衣料が世界の富裕層に支持される日は来るのだろうか? ブランドイメージやデザインが重要視されるこの業界では、難しいように思えるかもしれない。だが、私には案外近い将来、その日が来るのではと思えてならない。

『イノベーションのジレンマ』などの著作で日本でも知られる、HBSのクレイトン・クリステンセン教授によると、過度なアウトソースこそが、アメリカ経済を弱体化させた原因だという。

たとえばPCメーカーのDell。PCの製造工程を台湾のAsusTekに徐々にアウトソースしていくうちに、ついには、新製品のデザインから製造まですべてをAsusTekが担い、Dellが提供する価値はブランドのみになってしまった。そしてAsusTekが自社ブランドのノートブックパソコンをアメリカで低価格で販売するようになったとき、Dellには何も優位性が残っていなかった。このように資本効率化を理由にノンコア事業をアウトソースしていくうちに、いつの間にか委託先がほとんどの価値を生み出しているというビジネス上のジレンマに、多くの企業が悩まされている。

綿花から完成品までのバリューチェーンのほぼすべてを担うこの衣料品メーカーが次に目指すのは、デザインとブランドだ。DellがAsusTekに追い抜かれたように、ある日、欧米の高級ブランドに代わって中国の衣料品メーカーが、世界の高級ファッション業界を牛耳る日が来てもおかしくない。「メイド・イン・ジャパン」という言葉も、かつては「安かろう、悪かろう」という悪口として使われていたことを思えば、そうした変化が起きても不思議ではない。

本気で大気汚染から脱出する、富裕層

それから、中国の大気汚染問題。ニュースなどで聞いていたが、実際に行ってみると、想像以上に深刻だった。目の前のビルがかすむほど空気が汚れており、上海ではわれわれのメンバーの中から気分が悪くなる人が出るほどで、生活どころか短期の旅行にも支障が出るレベルに達している。

必需品化する「大気汚染アプリ」。筆者の訪中時、北京、上海ともに安全とされる値を超えていた

ちなみに中国での生活や旅行には、「大気汚染アプリ」が欠かせない。毎朝、アプリでAQI(空気質指数)をチェックし、数値に応じてマスクを着用したり外出を控えたりする。AQI50以下が安全と言われている中、われわれが滞在していた1月中旬、上海は200~300(Very Unhealthy:きわめて健康によくない)を推移していた。さらに、北京は500(Hazardous:危険)という指数の上限を振り切る日もあった。

殺人的ともいえる大気汚染から逃げようとする人たちも増えている。某戦略コンサルティングファームの社長は、ここ最近になって、周囲の駐在員が自国に戻り始めたと話していた。一部の富裕層では、空気が比較的きれいな香港に家族を移し、平日だけ旦那が北京へ単身赴任するケースも増えているという。

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