“超男社会”でデキる女が男をいなすコツ 刑事ドラマに学ぶ女性ボスのサバイバル術

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女性ならではの弱点が、女性の共感を呼ぶ

さて、全米では番組のヒットと共に、「理想の上司」として人気を博したブレンダ。その魅力は、とりわけ女性にとって共感とあこがれを呼ぶものであろう。地図が読めない方向音痴で、家の中は散らかしっぱなし。カバンの中身も整理されておらず、時に感情的になることもあれば、ヒステリックな時もある。離婚歴があり、ロサンゼルスに来ると同時に、FBI特別捜査官フリッツといい感じになるが、仕事優先なのでままならない。

極めつけは、大のスイーツ好き。デスクには甘いものが常備してあるが、中でも好きなのはHostess印の銀紙に包まれたチョコレートケーキ(もどき)の“Ding Dong”。これがアメリカのスイーツらしくケミカルでチープ。とにかく極甘で日本人には耐えられない糖分過剰なジャンクなのだが、ブレンダが仕事の後においしそうにパクつく姿は、まさにスイーツ依存症! ストレスで甘いものを食べすぎるのはよくないと自責の念に駆られるブレンダに、多少のご褒美も必要だよねとつい擁護したくなる。

そんな彼女の決め台詞は「Thank you!」。これにはいろんな使い方があって、プロベンザやフリン、あるいは上司に向かって要求をまくしたて、最後に笑顔で言うサンキューは「異論は受け付けません。よろしくね。以上!」という意味合いを含む。一方で、心の底からの謝意を表す際に使われるときは、非常に心を動かされるものがある。言葉の使い方ひとつにも、ブレンダのユーモアとタフさ、繊細さを読み取ることができる。

よくある刑事ドラマの女主人公のように、あきれるほど男勝りでもなく、かといって女を武器にしすぎず(多少は使う)、ごりごり強気で押すだけではないブレンダの上司としてのあり方は、日本人にとっても共感できて参考になる部分が多いと思う。

女性に対する差別意識にどう対処するか

ちなみに、冒頭でアメリカの強い女性像について触れたが、とりわけ刑事ドラマでは、女性に対するセクハラまがいのエピソードは多く登場する。本作でも、おじさんたちの下品なジョークはともかくとして、興味深いのは第1話でポープに人事への不満を訴えるテイラーが、「まさかあんな女が……」と言うくだりで、原語では「girl…woman, person? Whatever…」と言いよどむところ。

世界の先進国に比べて日本の会社組織は、相変わらず女性にとって前時代的で不利な点が多すぎると思うが、程度の差はあっても、働く場における男性の女性に対する戸惑いや差別意識は、日本に限ったことではないのである。それをブレンダがいかに対処するのか、やり過ごすのか、闘うのかが、ビジネスパーソンにとっての見どころでもあるだろう。

『クローザー』は2012年に全7シーズンで終了した。現在は、ブレンダに代わって別の女性が上司としてチームに赴任してくるという設定のスピンオフ(姉妹番組)『MAJOR CRIMES ~重大犯罪課』が人気を博している(シーズン1のDVDは4月2日にリリース)。こちらも機会があれば紹介したいと思う。

今 祥枝 映画・海外ドラマライター

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いま さちえ / Sachie Ima

東京女子大学文理学部卒。大学在学中、専門学校で映画製作の基礎を学び、卒業後は出版社で雑誌編集業務に携わる。28歳で映画・海外ドラマを専門とする現職に。『BAILAバイラ』で「今ドキ シネマ通」、『日経エンタテインメント!』で「海外ドラマはやめられない!」ほか、女性誌・情報誌・ウェブ等で連載中。著書に『海外ドラマ10年史』がある。

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