なぜ女児はホームドアの隙間に取り残されたか 海外では車両と密着、日本も見直すべき?

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本稿は車両とホームドアの隙間が広すぎることに問題提起しているわけだが、広いことにまったく意味がないわけではない。

北京メトロ7号線のフルハイトのホームドア(筆者撮影)

例えば、列車が走行中に火災が発生し次の駅で乗客の避難が必要な場合、停止位置がホームドアとずれると避難できなくなる。その際、車両とホームドアに30cm程度の隙間があれば、辛うじて避難することが可能である。

実際はセンサーの支柱が邪魔をして通りにくいので、それを目的に隙間を作ったとは考えにくいが、最悪の場合の逃げ道としては有効である。

車両とホームドアの隙間が狭い海外の場合、従来はその点に配慮しないもの(エレベータと同じ)が多かったが、最近は北京メトロ7号線のように戸袋部分を開くことが可能な構造になりつつある。デリーメトロのハーフハイトのドアも、戸袋に挟まれた部分を開いて避難可能である。日本でも最近は避難可能な構造にした例があるが、ほとんどは戸袋部分が固定で隙間を通らないと避難できない。隙間を狭くする議論においては、この点も十分に検討する必要がある。

従来のやり方がすべてと思ったら進歩がない

筆者は海外鉄道コンサルタントという立場上、日本と海外のシステムを比較する機会が多いが、単純に日本は遅れているから海外を見習えなどと主張する気は毛頭ない。筆者の持論は“鉄道は土着の交通機関”であり、それぞれの鉄道は環境や背景が違っているので、ほかの地域の成功例を採用するには注意が必要である。日本のシステムを海外に持ち込む場合もそうであるし、その逆もしかりである。

車掌が乗務し、空調がない時代の窓が開く電車が走る日本の場合、海外の新しいメトロと同じ方法を持ち込むことはできない状況にある。しかし、それらが変化していく中で、従来のやり方がすべてだと思って改善しないのでは進歩がない。今回の事故を契機に、ホームドアのあるべき姿を再検討すべきではないだろうか。

辻村 功 技術士(機械部門)

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つじむら いさお

1956年生まれ、早稲田大学理工学部卒。電機メーカーで鉄道車両用機器の設計業務に従事。外資系電機・ブレーキメーカーを経て独立。現在はインド国内で鉄道コンサルタントとして活躍中。

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