クールジャパン機構、この1年で何が変わった? 昨年就任した北川CEOと加藤COOを直撃した

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――政策性と収益性の「二兎」を追うのは結構しんどいと思います。いっそのこと、目標をどちらか1つに絞ってはどうでしょうか。

北川:当事者として(二兎を追うことに)僕は違和感がない。会社というのはいつも2つを追っている。人を減らして売り上げを倍にしろとか。僕もそうやってきたので、目標が1つだけだなんてとんでもない。

――機構に課せられた収益性といっても、民間ファンドのように20%とか30%とかのリターンを求められているわけではない。投資元本が返ってくればいい、という建て付けです。

加藤:難易度は高いと思う。民間は、利益に向かって全力疾走でいい。しかし、クールジャパン機構は目標が2つある。全力疾走でなく、バランスでやるというところが難しい。振り切っていいならバンと押せばいいが、てんびんにかけてやらないと。

チームとよく話しているのは、政策目的と収益がトレードオフでなくなる瞬間もたまにある、ということだ。例えば、中国の日本酒案件は、KPI設定がすごく簡単にいった。

経営陣は次の成長の柱は日本酒だと言った。しかも日本酒は彼らのインフラにそのまま乗っかる。ストーリーも歴史もあって、ワインと同じようなカテゴリーで成長の柱にできる。こういうケースを見つけると、仕事のやりがいをすごく感じる。

吉本案件に変更はない

――既存の投資先の進捗状況を聞かせてください。最大110億円を投じる中国・寧波のジャパンモールの開業時期は、延期されて今年秋になる予定です。

北川:ブランド戦略がきちんとできて、成功させたいという阪急さんの思いがあるので、そのへんが見えるまで(開業時期が)なかなか決まってこなかったという事情があると思う。僕らは(相応の出資金)額を出しているが、中国のパートナーやテナントの問題はどうしてもH2Oリテイリングにある程度頼らざるをえない。

――沖縄の吉本興業との共同投資案件に世間の批判が集まっています。

北川:(社外取締役でつくり、投資案件を審議する)海外需要開拓委員会の議論も通過してきている案件だ。政策性と収益性をみて、反社かどうかも当然チェックしてスタートしている。

(吉本案件は)何度も聞かれるが、かなり厳しいチェックを(ほかの案件と)同じようにやっている。「(吉本案件を)どうするんですか」と聞かれても、別に何か決定自体が誤っていたわけではないし、「(投資方針の変更などは)ないですよ」と申し上げている。

――投資ファンドのビジネスモデル上、費用が先行する「Jカーブ」を描くのは理解できます。問題は、クールジャパン機構の存続期間である2033年までに本当にカーブが持ち上がっていくのか。相当未来の話なので、よくわからない。

北川:累損を単純に見ている人もいるので、そうではないんだと。懸念をもたれているポイントは違いますよ、というのをぜひご理解いただきたい。

加藤:いま(投資先の)ポートフォリオが30社を超えてきており、バリュークリエーションや投資先との連携の努力をきっちりやっていく。そして、これまで通りにパイプラインをしっかり積み上げ、政策的にも、経済的にもいいエントリーをする。

もう1つ、やはりミッションを忘れないということが重要だ。われわれのミッションは海外事業開拓支援。そのミッションのために適切な投資とは何なのか。それをつねに問い続けていく。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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