マルハニチロに問われる意識転換 冷凍食品の農薬混入事件が突き付けたもの

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管理体制に改善の余地

従業員逮捕を受けて25日夜に開いたマルハニチロの緊急会見。

工場内の管理を強化するにも限界があり、今回のような犯罪行為を完全に防ぐことは難しい。だが、改善の余地はある。

アクリの群馬工場の場合、食品衛生の国際規格であるISO22000を取得しており、衛生面では一定のレベルの管理がなされていたとみられる。しかし、工場内部には監視カメラが設置されておらず、ボディーチェックもないなど、「故意」の異物混入を防ぐ管理体制としては十分でなかった。

 他社の取り組みに目を向けると、JT傘下のテーブルマークグループでは、中国冷凍ギョーザの中毒事件後、工場内の監視カメラの台数を増やし、映像の保存期間を延長している。味の素冷凍食品でも自社工場に出入りする人物の管理を強化するため、一部で指紋認証システムの導入や、個人を識別できるカードでの入場制限を取り入れている。

 意識改革と信頼回復

マルハニチログループでも、群馬工場よりも管理体制が整った工場がある。たとえば、マルハニチロ食品の工場では監視カメラが最大35台稼働している。また、アクリの夕張工場でも製造ライン上を含めてカメラが20台取り付けられている。一方、群馬工場では外部からの侵入者を防ぐための監視カメラが5台あるだけだ。今後、工場での管理体制を強化するうえで、バラツキのある運用をどのように見直していくかが大きな課題だろう。

今回の総会で、ある男性株主は「事件を受けて(アクリを含む)合併の見直しはしなかったのか」と質問したが、マルハニチロHDの久代社長は「アクリ単体での再生は難しい。グループで総力を挙げて信頼回復に努めたい」と強調。そして、賛成多数で4月の合併議案が可決された。

「従業員を信用して工場をよくしていくというのが、組織の根本にあった」(村田常務)という同社が意識を変え、いかに食の安全を確保するのか。信頼回復に向け、その覚悟が問われている。

田野 真由佳 東洋経済 記者

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たの まゆか / Mayuka Tano

2009年に大学を卒業後、時事通信社を経て東洋経済新報社に入社。小売りや食品業界を担当し、現在は会社四季報編集部に所属。幼児を育てながら時短勤務中。

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