トヨタ「世界一のスポーツカーメーカー」への道 あのポルシェを超えるために必要なことは?

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「それで『だからオレは気が緩んでいるって言っていただろう!』ってチームをもう1回引き締め直したと。自分たちの行きたい極み、頂上が、どんなことが起きてもコントロールしきるチームだとすると、まだこの先はあるんだって話を皆に意識付けしてきたんです。何回も厳しいことがあったけど、ル・マンで勝ちたいよな。またル・マンで負けて悔しい思いしたくないよなということで皆を鼓舞できた。負けて泣く暇があったら今、目の前の課題を解決するために涙を流してくれと。ル・マンで流す涙は、達成した涙にしようぜって言っていたんです」(村田氏)

今回の優勝、簡単そうに見えて実は裏にはそんな戦いもあったのだ。

風向きが変わった2015年

筆者は2013年以来、まさにWEC、ル・マンこそハイブリッドをいただくトヨタが出るべきレースだと確信し、フォローしてきた。当初からその活動は順調だったわけではなく、特に当初は予算などさまざまな面で、トヨタが総力を結集して……とは見えない感も漂わせていた。

それが2015年のシリーズチャンピオンなど好成績が出るに従って風向きが変わりだし、遂に2017年にはTGRとして、トヨタの主要なモータースポーツ活動の1つに位置づけられるまでになった。

今年のル・マン24時間レースを制したTOYOTA GAZOO Racing(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

GRカンパニーの友山茂樹プレジデントは「GRの描いている理想像にWECの活動が近づいてきたということだと思いますよ。技術部門のレースではなく人材育成の要素が入り、またGRスーパースポーツの開発という具体的なプロジェクトも入ってきて、それが明確になってきましたよね」と話している。

「全部、切り拓いてきただけです。偶然はありません。今のWEC、認知されるように散々やってきたわけで、全部必然なんです。ハイブリッドでレースをやれと言われて、出ていって勝てるように持っていった。レギュレーションもない中、ACO(フランス西部自動車クラブ)のドアをたたいて。最初はハイブリッドもしくはレースっていうのは認知されてない、もしくは応援してもらってない。そうしたら応援してもらえるようにするわけです」(村田氏)

「2020-2021年からのWECの新しい最高峰クラスも、このままいくとプロトタイプのハイブリッドは興味が失われてくる。GRカンパニーが、この後も継続してACOと一緒に仕事をしていくには変革をしなきゃいかんと提案したわけです。机に座っていて、勝手に事態が好転することなんてありえない。ある地点に行くつもりなら、それに向けた行動をしないと、何事も絶対切り拓けないんです。意思だけが自分の未来を切り開くんだと思いますよ」(同)

無事に1-2フィニッシュを達成したものの、実際にレースは終盤までトップを走っていたトヨタの2台のうちの1台がトラブルで後退し、もう1台が逆転でチェッカーを受けるなど、決して順風満帆ではなかった。まだまだ“強いチーム”を極めるには、やるべきことがあるのかもしれない。戦いは、これからも続いていく。

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