トヨタ「世界一のスポーツカーメーカー」への道 あのポルシェを超えるために必要なことは?

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もちろん、簡単ではない。それこそ人は“首根っこ捕まえて引きずり回しても”、本人が自覚しない限りは変わらないからだ。

「大きなトヨタ自動車から来たメンバーと、TMGとモータースポーツ部をひっつけたのが今の技術領域で、この中でGRスーパースポーツコンセプトを作ろうとしているんですよ。でもね、そんなうまいこといくわけないでしょ。今、苦しんでいるんですよ。毎月毎月、いろんなところで火花散らしていて、でも『おー、火花散らしとるなあ、これをオレは待っていたんだよ』と思って、それを見ています(笑)」(村田氏)

自分で見えてるところは限られている

そういう失敗や波風がなくて、するっとできるわけがない。

「そんな簡単にできるんだったら、今もトヨタはすごいスポーツカーをいっぱい持っていますよ。豊田綱領を読んで、豊田佐吉の言葉『障子を開けてみよ、外は広いぞ』を暗唱していたかもしれないけど、、これが現実なんだぞって話を今、してます。自分ひとりで見えてるところは所詮限られているということを自覚して生きていけば、絶対オレらは世界一のスポーツカーカンパニーになれると。だけど、しんどいよって。やってる最中」(同)

「しかも、世界一のスポーツカーカンパニーになるなんて大ボラを成し遂げようとしたら、10年も20年も、ずっと今の戦闘力、今の思い、熱情を保ち続けないといけない。それを実現しようとすると、5歳おき、あるいは10歳おきにリーダーになれるような人材を育てていかないと、結局組織自体が弱体化するので、そういうようなレイヤーを育てる努力も求められますね。そういう、駅伝のタスキをつないでいく連鎖こそが、伝統だったり、ブランドということなんだろうと思っているので、いま一生懸命それはやっています」(同)

世界一のスポーツカーメーカーへの道は、もちろんそんなに簡単なものではない。時代も変わっている。レースで勝ち続けるだけで世間に価値を示し続けられるのかどうかも微妙だが、しかしトヨタには少なくともハイブリッドという武器がある。

圧倒的な高性能と走りの喜びを、ル・マンで示すがごときの高い信頼性で実現できたなら、そしてそれが10年も20年も継続されていくなら、景色が変わってくる可能性は十分ある。TGRの世界一のスポーツカーメーカーへの道、今後も継続して追いかけていければと思う。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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