対中関税第4弾、トランプは何を焦ったのか 「中国建国70周年」を前に習主席を揺さぶり

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このうち、白黒をはっきりさせる必要がある「原則問題」といえるのは制裁関税の撤廃だけだ。アメリカ製品の購入規模は内容、金額とも交渉の余地がいくらでもあり、抽象的な最後の条件は付け足しのようなものだろう。あくまで追加関税の撤廃を勝ち取るのが本当の狙いだと思われる。

また、アメリカからの要求を法律にして実行するような、中国からみて内政干渉にわたる要求にも徹底的に抵抗する。これについて中国は長期戦の覚悟を固めている。

中国は6月2日にこの問題について白書を公表し、原則問題では絶対に譲歩しないという姿勢を改めて鮮明にした。その中で「いかなる国にも自らの原則がある。協議の中で、一国の主権と尊厳は必ず尊重されなければならず、双方が得る合意は平等互恵のものであるべきだ。重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない」としている。

アメリカ産大豆に中国も報復関税を発動

トランプ氏はツイッターで「3カ月前に対中協議はディール(合意)ができかけたが、残念ながら署名前に中国が再交渉を決めた。農産品の大量購入を約束したのに、それも実行されていない」と不満をあらわにした。

アメリカの3次にわたる制裁関税に対し、中国側も報復している。アメリカ製農産品はその1つで、中でも効果がいちばん大きかったのが大豆だった。

2018年7月に25%の制裁関税がかけられた結果、アメリカから中国への輸出が急減。ジェトロの調べでは、2018年10月から2019年3月までの6カ月間において、前年同期に56.2%あった中国の大豆輸入に占めるアメリカのシェアは7.2%まで落ち込んだ。そのかわりにブラジルやカナダからの輸入が増加。最近はロシアからの大豆買い付けも増やし、アメリカの農家の不満が高まっていた。

7月末に米中交渉を再開するにあたり、中国は大豆などの大量購入をアメリカ側に提示したようだ。その見返りに制裁関税やアメリカによる中国企業への制裁の緩和を求めたと思われる。こうした交渉が決裂し、今回の「トランプ砲」につながった。

しかし、制裁関税の廃止を求める中国からすれば、「制裁関税の完全撤廃」という原則問題がゼロ回答なのに、農産品でサービスすることはあり得ない。制裁関税の撤廃に向けた歩み寄りがあるまでは、持久戦の構えを解かないだろう。

2020年11月の大統領選をにらんで早く何らかの成果を上げなければならないアメリカ側に比べ、中国は妥結を急いでいない。6月29日に大阪で両首脳が会談した際も交渉に期限が設けられず、このままでは、11月のチリでのAPEC首脳会議で両首脳が顔を合わせるまで長引きそうだ。

10月のブレグジットなど、株式市場が不安定化しかねない中、交渉が長引けば長引くほど、トランプ氏には不利。「真夏のトランプ砲」の背景には、そうした焦りがあるのではなかろうか。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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