N国党躍進を茶化す人が見落とす「庶民の鬱屈」 面白半分で票が集まったと考えるのは大間違い

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ここで最も懸念しなければならないのは、「NHKを巡るイシュー」がかつての「官僚叩き」のように、政治家の人気取りの道具にされることである。すでにその兆候は現れている。「日本維新の会」の松井一郎大阪市長が「NHKが現職国会議員の受信料不払いを認めるのであれば、大阪市も(受信料の支払いを)やめさせてもらう」という主旨の発言をしたことが報じられているが、元維新の会の議員である丸山氏を取り込んで注目を集める「N国党」の動静を強烈に意識したものであることは指摘するまでもないだろう。

今後も引き続き他の政党や政治家による「N国党」への接触や言及は進むだろう。だが、「NHKを巡るイシュー」ばかりに注目が集まることで、場合によっては消費増税や安全保障問題など、他の重要な論点の数々に対する関心が弱まる可能性がある。当然、このような状況を巧みに利用する者も現れるだろう。

立花氏は、スクランブル放送の実施への協力と引き換えに、安倍政権の悲願である「憲法改正の国会発議に賛成する」と明言している。

「無党派だが不安や不満を抱えた層」を取り込んだ

実のところ、「N国党」は、既存の政党がアプローチできていなかった「無党派だが何らかの不安や不満を抱えた層」を掘り起こすことに成功していた、と素直に考えるのが正しいように思われる。それは山本太郎代表が率いる「れいわ新鮮組」も同様だろう。

与党を含む他の政党は、このことの重大性についてもっと自覚したほうが良いかもしれない。もしこれらの階層に潜在している怨嗟(えんさ)を上手く手当てすることができなければ、「N国党」でなくとも別の新興勢力のようなものが、数百万人は存在するであろう「怨嗟の票田」を得て急伸するだけである。想定外の事態へと突き進むポテンシャルがあることに、果たしてどれだけの人々が気付いているだろうか。

先日、電車に乗っていたら、珍しいことに20代の若者のグループが参院選の結果で盛り上がっていた。そのうちの1人が発した「国会がカオス過ぎて面白い」は、「れいわ新選組」と「N国党」が提供した話題についての反応だったが、これほどシンプルに今の時代の空気を言い表した感想はないだろう。

「れいわ」と「N国党」は出現の仕方もベクトルも異なるが、社会の地滑り的な崩壊が始まったことを知らせる、いわば2つの別々の音色を発する警笛のようなものであろう。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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