トランプの巧みな戦術を民主党は突破できるか 民主党はどのような大統領候補を選ぶのか

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バイデン氏では戦えない?(写真:REUTERS/Brian Snyder)

民主党大統領候補の第1回テレビ討論会では、バイデン候補は人種問題に関して過去自らが推進した政策についてハリス候補から批判を受けた。そして、回答は説得力に欠ける内容であった。討論会後、バイデン氏は準備不足であったと釈明したが、本選でトランプ大統領の攻撃に対抗できるか不安視されるようになった。 

7月30~31日、第2回テレビ討論会が行われる。「勝てる候補」のはずのバイデン候補が再び弱さを露呈すれば、民主党予備選の有権者の支持は他の候補に移ることもありうる。2016年大統領選でいえば、共和党予備選で当初は先頭にいたがその後は力尽きたジェブ・ブッシュ候補のような事態に発展するかもしれない。

近年の大統領選で予備選と本選の両方を勝利した民主党候補は、変革を訴えるアウトサイダーである。2008年の大統領選を制したオバマ候補は当初、予備選では勝てる候補とは思われていなかった。1992年に勝利したビル・クリントン元大統領、1976年に当選したジミー・カーター元大統領も同様だ。

ベトナム戦争、ウォーターゲート事件などを経て民主党有権者はワシントン政治に懐疑的となり、アメリカ政治の変革を公約にかかげるアウトサイダー候補を選んできた。バイデン候補は主流派の代表格であり、最もアウトサイダーから遠い人物だ。仮に民主党大統領候補に指名されれば、本選にこれまで出馬した候補の中では政治歴が最も長い候補となる。

「トランプ・デモクラット」の動向がカギを握る

本選では、2016年にはトランプ氏に投票したものの、2018年中間選挙では投票所に足を運ばなかった有権者がどのような投票行動に出るかが重要だ。最終的に民主党大統領候補が誰になるかで選挙戦は変わるだろう。

仮に民主党大統領候補が革新派である場合、ラストベルト地域のトランプ・デモクラットが支持するかどうかが極めて重要な問題となってくる。ラストベルト地域に多く集結するトランプ・デモクラットは社会思想が保守的であることからも、移民、人種、性差別などで進歩主義政策を打ち出す革新派候補には抵抗感を抱く可能性があろう。

一方、バイデン候補は自らを労働者階級の出身と位置づけ、本選での同階層の支持獲得を重視した選挙キャンペーンを展開している。バイデン氏のような主流派を民主党が選んだ場合、革新派支持の有権者が関心を失い投票しないリスクも懸念される。

だが、近年の民主党大統領と異なり、1976年以前のように政治歴が長く、アウトサイダー候補でない人物が本選では支持される可能性もある。なぜなら、今回はトランプ大統領の再選を阻むために投票するという民主党支持者が増えるかもしれないからだ。

ワシントン政治にある種の革新をもたらしてきたトランプ大統領に2期目を任せるのか、またはトランプ大統領の前の時代に戻ることを望み民主党復元派に託すのか、または新たな変革を公約する民主党革新派に託すのか、そのカギは「トランプ・デモクラット」が握っている。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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