女性に「無理しないで」と言う上司はなぜダメか 子育て&仕事に意欲的な「フルキャリ」の本音

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フルキャリと管理職の思いが食い違ってしまうことについて、筆者は、フルキャリが持つ高い仕事への意欲が、外部からは把握されにくいためだと考えています。その理由は2つです。

1つ目は、ライフイベントにも積極的に取り組もうとするフルキャリの周囲では、事実さまざまなライフイベントが起きており、外部はこの事実を中心に彼女の状況を評価しがちになるという点です(無形の「意欲」より、有形の「ライフイベント」のほうが客観的に捉えやすいので、仕方がありません)。

2つ目は、実際に、子育てしながら働くフルキャリは、周囲よりも早く退社したり、子どもの体調不良などで急に休まざるをえないことから後ろめたさを感じている人も少なくありません。

そうすると、フルキャリ自身が「このような状況なのに、『私は仕事でこういうことをやってみたい』などと言うのはよくないだろう。わがままだろう」と、仕事上の意欲を職場で表現したり、伝えたりすることを躊躇してしまいがちだという点です。

よかれと思って行われた管理職による配慮は、「自分は上司から期待されていないのではないか」という不安をフルキャリの中に生み、彼女たちがもともと持っていた仕事に対する高い意欲を、自らの力で持続させることが難しくなっていきます。

「さて、いよいよ仕事も頑張ろう」と気持ちを奮い立たせて育休から復職した直後、管理職による「配慮」という洗礼を浴び、「期待されなくなってしまった現実を見たような気がした」と振り返るフルキャリは案外と多いのです。

フルキャリにとって「無理しないで」は戦力外通告

もう1つ、フルキャリに復帰直後のことを話してもらう中でよく出てくるエピソードがあります。出産後、職場に復帰したときに上司から掛けられた言葉の中でつらかったのは、「無理しないで」だったというものです。

無理をしなくてよいというのは、仕事は仕事で周囲の期待に応える成果を出したいとするフルキャリにとって、戦力外通告のようなものに感じてしまうからだと筆者は考えます。

例えば、30代(だった頃)のあなたが、何かと自分の仕事ぶりを気に掛けてくれていた上司に、「結婚おめでとう。新しい生活は何かと大変だろうから、しばらく仕事は無理しなくていいよ。周りのみんなにサポートしてもらってさ」と言われたとします。どう思いますか。

「ラッキー! 無理しなくていいんだ! しばらくは家庭優先で仕事はそこそこにしよう!」と手放しで喜べますか。「家庭も大事だが、仕事は仕事でより一層頑張ろうと気持ちを新たにした途端、無理しないでいいと言われてしまった」と、なんともいえない気持ちが湧きませんか。

少なくとも「女性の部下のマネジメントは今後どうしていけばよいのだろう」と問題意識を持ってくださるような管理職の皆さんにとって、上司からの「(君は)無理しないでいいよ」は、手放しで喜べない一言ではないでしょうか。それは、フルキャリにとっても同じなのです。

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