伝説の怪奇漫画家が歩んできた退屈しない人生

73歳の今もなお新作の制作に意欲を燃やす

「その劇画を読んで『漫画だったら形にできるかも?』と思ったんですね。偶然そいつが本を渡さなかったら、映画業界に行ってたと思います。でも偶然じゃなかった気もするんですよね。運命的なものを感じます。とにかくそこから本格的に漫画を描き始めました」

漫画家を目指したのはいいが、まだ何を描いていいのかは見えなかった。

SF、4コマ、ロボットもの、ギャグ漫画などなんでも描いたが、なかなかアイデアも出ないし、ぶつかってくる物もなかった。

ギャグ漫画を描いては『おそ松くん』の赤塚不二夫に、劇画を描いては『子連れ狼』の小島剛夕に「自分には無理だな……」と挫折を感じた。

「でもへそ曲がりなので、弟子入りなんか絶対するもんか!!と思っていました。ギャグ漫画でも時代劇でもない、まったく違うことをしようと志しました」

1冊の小説をきっかけに、怪奇な物語がひらめく

高校卒業後は、いったん熱帯魚屋さんに就職した。友達と同人誌を作ろうということになったが、それでもまだ何を描くか思い浮かばなかった。

「そんなとき、また友達が『これ読んでみたら?』って1冊の本を貸してくれたんですよ。レイ・ブラッドベリの『刺青の男』という小説でした」

『刺青の男』は全身に彫られた18の刺青が、夜になると話し始める……という短編集だ。世界の終わり、核戦争など、暗い未来などを描いたSF作品だった。

小説を読んでいるうちに、真っ暗闇のなかにポツンと光がついた気がした。読み進めるうちに、アイデアがふつふつ湧き始めた。

「レイ・ブラッドベリの新しい感覚が入ってきたおかげで、今までたまっていたものに火がついた感じでした。枕元に置いてあったノートにアイデアをメモっていくと、ラストのどんでん返しまで10分くらいで書き上がりました」

『怪奇と叙情』をテーマにしようと思った。レイ・ブラッドベリは欧米人なので、サーカスやカーニバルが彼らにとってなじみのある世界観だ。日本人にとってはお祭りの笛の音や提灯の明かりなどに怪奇や叙情を覚える。

そんな方向性が決まった時に、ひとつの記事を読んだ。漫画雑誌の片隅に載った「昔、中国でお腹の中にできものができた男がいた」という小さな記事だった。なぜか気になりメモっておいた。

「全身にできものができる男の話を描こうと思いました。現代モノだとキツすぎるので、昔話にしました。作品を描いていくうちにどんどんグロテスクな作品になっていきました。主人公の心が純粋で透明であることを描くためには、肉体的にはグロテスクに描かないといけなかったんですね」

主人公の青年蔵六は、吹き出物だらけになる奇病にかかり村を追放される。森のあばら家に隔離された蔵六は全身のでき物から流れ出した七色の膿で絵を描き始める。

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