「本業消滅」を乗り越えた企業の"重要な共通点" 事業が衰退期を迎えたとき何をするべきか

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またエーザイは、1996年にエルメッドエーザイという高付加価値ジェネリック会社を設立した。これは、ルメルトの多角化の理論から言えば、関連多角化に相当した。「薬の飲みやすさ」を差別化の武器とした同社は、早期に黒字化した。

しかしエーザイは2018年に、エルメッドエーザイをジェネリック専業の日医工に売却すると発表した。新薬開発に集中するためと報じられたが、新薬のマネジメントとジェネリックのマネジメントでは、重点の置き方が違っていたようだ。新薬の場合は、バリューチェーンの中で、最もカギとなるのは研究・開発である。一方ジェネリックの場合は、いかに高品質・低コストの製品を作るかの生産が重視される。

以上のように、隣接する関連多角化であっても、「近そうで遠い事業」は少なくないのである。

「うまくいく事業」を見極める2つのポイント

「遠そうで近いもの」もあれば「近そうで遠いもの」もあるとなると、「関連多角化なら成功する」という単純な話ではなくなる。本業と新事業の関連性以外に、注意すべき点は何だろうか。

第1は、評価尺度の問題である。事業を何で測るかである。従来の本業で使っていたモノサシで新事業を測ると、一向に評価されないことがある。

「売上高」「生産数量」「稼働率」「粗利率」「総資産利益率」「予実差」など、企業が無意識に使っている尺度は、昔からの本業を最もよく表す尺度になっている。鉄鋼会社では事業は「トン」で測られ、有名なファッション・テナントビルでは「坪効率」が絶対的な尺度である。

第2は体内時計の問題である。言い換えれば、時間感覚である。

日常業務を行うとき、投資の意思決定を行う際に、時間感覚は出てくる。一般には体内時計の遅い(時間感覚の長い)企業が、体内時計の早い(時間感覚が短い)事業を行うと、マネジメント上の問題が生じやすい。

例えば“銀証一体(連携)”の流れの中で、銀行が証券子会社を設立し、証券業務に進出した例は多いが、大成功している話は聞こえてこない。証券は前場(9時〜11時30分)でいくら、後場(12時30分〜15時)でいくらという締めがあり、営業マンも2〜3時間刻みで営業の数字を見ている。一方銀行は、伝統的には「1日で締めていくら」という世界であり、両者は体内時計が違う。

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銀行と証券のリスク・リターンという商品特性の違いだけでなく、体内時計の違いは1度なじんでしまうと、研修などで変えられるものではない。

ほかにも、かつて電力会社の多くが通信事業に進出し、失敗した例がある。すでに電線というインフラを持ち、家庭へのケーブルも自社で保有しており、通信との親和性も高いと思われた。

しかし電力会社の通信事業の多くは、他社に売却されたり、事業縮小となった。

その原因として、1つには投資判断における時間感覚の違いがある。電力会社でダムを造るのは「100年の計」であり、綿密な需要予測、供給計画、コスト計算に基づき決定されるが、通信の場合には、競合の出方によって投資時期も変わるうえに、ソフトバンクであれば、トップの判断で1日で変わることもある。さらに通信の分野では、100年先の需要予測は不可能である。

このように、事業が近いか遠いかということ以上に、体内時計の違う事業に転換・進出しようとすると、失敗の確率が高いことは、肝に銘じておく必要があるだろう。

山田 英夫 早稲田大学ビジネススクール教授

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やまだ ひでお / Hideo Yamada

1955年東京都生まれ。早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。三菱総合研究所にて大企業の新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早稲田大学に転じ、現職。専門は競争戦略論、ビジネスモデル。博士(学術、早稲田大学)。ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーホールディングスの社外監査役。主な著書に、『異業種に学ぶビジネスモデル』『競争しない競争戦略』『ビジネス版 悪魔の辞典』(以上、日本経済新聞出版社)、『成功企業に潜むビジネスモデルのルール』(ダイヤモンド社)、『マルチプル・ワーカー 「複業」の時代』(三笠書房)、『ビジネス・フレームワークの落とし穴』(光文社新書)など。

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